第38話

「おお~」

「結構いいんじゃない?」

「思った通りね! 可愛いわよ」

「はあ、どうも」

 どうしてこうなった。

 文化祭当日、いつもより早めに学校に到着した俺は無理やり女装をさせられていた。女子にいろいろ触れられてちょっとドキドキしたのは別にいいとして、本当に似合っているのだろうか。

「ほらこれ、鏡みてみて」

 近くにいた女子が鏡をもって見せてくる。そこにはいつも見慣れた俺の顔。ではなく、見たことない女の子の顔があった。

 ちょっと待ってこれが俺!? いやいやいやいや思考が追い付かないんだが、おかしい。確かに化粧には化けるって字が入ってはいるがこれは化けすぎである。詐欺みたいなもんだ。

「くっ、溝部君に負けた感じがしてなんだか悔しいわ」

 そんな目で見られても困るんですが藤井さん。

「まあ、声出したら男なんだけどね。そうだ!裏声出してみてよ」

 他の女子がまた余計なことを言っている。やめてくれ!

「いいわねそれ。ほら溝部君何かしゃべって」

「えっ、え~あーあー。こ、こんな感じでどうかな」

 言われたら逆らえない感じのこの空間ではこうするしかなかったのだ。

「……」

 あーこれダメなやつだわ。絶対キモいとか思われてるよ。

「……いい! これはイケるわよ絶対!」

 予想外の反応に驚いたがそうか、イケるのか俺。見た目もなかなか決まってたしな。

 このとき、俺の中で何かがはじけた。

「ふふっ皆さん、今日はよろしくお願いしますね」

「いや、ノリノリでやられるとキモいわよさすがに」

 ですよね!

 そんなこんなで文化祭二日目は始まったのであった。


 初日の体育館でのオープニングや文化部の発表は例年通りの楽しい時間だった。俺たち実行委員はその後の各クラス企画前日準備でてんてこまいだったわけだが何とか乗り切ることができた。

 そして始まった二日目の今日。外部からもお客さんが来て毎年大盛況の文化祭本番ともいえるクラス企画の日がやってきたのだ。

「そろそろ時間だよ! 皆配置について!」

 係の人が皆に呼び掛けていく。俺もそろそろ配置につかなくちゃな。

「えっ溝部君?」

 その声に振り向くと、そこにはコスプレをした上野さんが立っていた。なんて言ったらいいのか、天使かと思った。

「うっ上野さん、その」

 彼女はシンプルなメイド服を着ていた。その綺麗な黒髪も相まって清楚な印象を与えているが、それでいて以前の彼女よりも柔らかい雰囲気を醸し出している。

「びっくりした。もう女装してたのね。それにしてもなんというか、いいわね」

 口の端が変に吊り上がった彼女の顔は先ほど感じた印象を台無しにしていた。

「上野さん顔が変になってるよ……その様子だと大丈夫みたいだね」

 当日緊張していたら大変だと思っていたが、今のところ大丈夫そうだな。

「時間時間! お客さん来るよー!」

 どうやら予定されていた時間になったらしい。

「それじゃあ溝部君、最後のひと踏ん張りね」

「うん、そうだね。あっそれと」

「何?」

「その恰好、とっても似合ってる」

「えっ、そっそそう? あ、ありがとう……。そ、それじゃあ!」

 よし! なんとかうまく言えたぞ! あの反応なら変には思ってないはずだ。俺は張り切って最初のお客さんを迎えた。

「いらっしゃいませ!」

 お客さんはぽかんとしている。あれ、俺何かした?

「溝部君、地声じゃあそりゃびっくりするよ」

「あっごめんなさい」

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