第27話
「ああああああおわっだあああああああああぁ」
テスト五日目、最後の教科が終わった瞬間張りつめていた教室の空気ががらりと変わって、みんなは謎の高揚感に包まれていく。誰もがこれからの午後は何をするだとかなんとか話し合っている中、俺はここ数日の疲れに体を支配されて机に突っ伏しながら呪詛を吐き出していた。
「溝部~、提出物あとお前だけだぞ」
「ああ、ごめんごめん」
テストの後にはこれがつきものだな。この提出課題から問題をいっぱい出してくる先生も珍しくないし、むしろこの課題をやってないとテストの点数は大幅に下がるに違いない。
ささっと提出してから家に帰る準備を始める。今日は帰って何をしようかと思考が皆に追いついたとき、いつものように俊之がやってきた。
「やっと終わったな樹、テストはどうだったよ」
「おつかれさん俊之、まあそれなりに解けたよ普通に」
全部は解けなかったけどな。まさかあんな暗記ゲーの問題が出てくるとは、いやになる問題量だった。確かテスト作ったのは今年入ってきた先生だったっけな……。
「まあなんにせよ、テストが終わったってことは次は文化祭なわけだよ樹」
「それがどうかしたのか?」
「どうかしたかってお前……テスト週間に勉強以外のことが吹っ飛んじまったのか? やるんだろ、実行委員」
そうでした忘れてました。俊之曰く俺と上野さんがコミュ障を脱却するための近道。人を無視できない、そんな環境に自ら飛び込んでいきコミュ障を矯正する荒療治である。
「そういえば上野さんは……」
「それならさっきなんかすごい速さで教室から出ていくのを見たぞ。走ってないのに人はあんな速さで移動できるんだな」
やっぱりか……。学級会は明日だからきちんと連絡をしておかないといけない。もしかしたら他の人が立候補する可能性もあるからな。
「まあとりあえず帰るかな」
家に帰ってからすぐ上野さんに連絡を取る。
『明日、学級会だけど段取り的には俺が立候補
その後に上野さんって流れでいいよな』
例外はあるかもしれないが大体こういう学級会ってのは常日頃からやる気のある、俊之みたいなリア充界隈が仕切るもんだ。そんな中で今まで特にこれといって何もしていない俺が立候補するには先手必勝、誰よりも早くパパッと内定をもらう以外に方法はない。
男女一人ずつの実行委員、上野さんが先に決定したら隠れ上野ファンたちが一気に立候補すること間違いなしだろう。逆に俺ならば他の女子が立候補することもなくなるのではないかと思う。自分で言っててちょっと悲しいが。
『なんだかんだでそうすると私たちの関係が疑われそうな気がするけれど』
問題はそこなんだよな。こんな風に立候補するとどう考えても怪しい二人になっちゃうという。しかしここは無理にでも二人で立候補する以外に方法はないわけで。
『どっちか片方だけが実行委員になっても仕方がないし
ここは仕方がないんじゃないかな』
『まあそれもそうね』
いよいよ明日、勝負の日である。
そんなこんなで学級会、俺は全羞恥心を捨て去って一番に元気よく立候補しなければならない。
「それじゃあ前回言った通り、文化祭の実行委員を決めます。男子一人女子一人です。えーと、じゃあやりたい人~」
来た! このタイミングを逃すわけにはいかない!
「はい! はい! はいはいはい!」
「お、おう。じゃあ男子は溝部でいいかな。他にやりたい人はいる?」
クラスのみんなはクスクス笑ってはいるが、他に立候補しそうな気配はない。
「じゃあ溝部に決まりね。次は女子、誰かやりたい人」
あとはこれで上野さんが手を挙げれば……
「はーい!」
最初に手を挙げたのは藤井さんだった。え、ちょっとまってそれは
「ここは朱里に任せるのがいいと思います!」
先ほどとは違いクラスがざわざわし始める。あかりという名前はこのクラスには上野さんしかいない。
藤井さんの方を見ると彼女はこちらに気づいてウィンクをしてきた。いったいどういうつもりなんだ。
一方上野さんはというと耳を少し赤く染めながらも無表情になっている。これは初めて見る表情だ。ちょっとおもしろい。
「ええっと、みんな静かに」
委員長が全体を静かにさせて上野さんに尋ねる。
「と、言うことなんだけど、上野さんどうかな?」
緊張と恥ずかしさが頂点に達したのか、おもしろいことになってしまっている上野さんだが、このことでさらに周りに注目されてどうしたらいいのかわからなくなってしまったのだろう。無表情で固まっている。
「う、上野さん?」
委員長がちょっと弱腰になってしまうほどの無表情。しかしもう一度問われて少し冷静になったのか、その無表情のまま彼女は少し首を縦に振った。
「え? えーっと、やるってことでいいのかな? じゃあ決まりで」
こうして何とか二人して実行委員になることができたが、この先一体どうなることやら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます