第26話

 勉強会は途中から、具体的には俺が昼食を食べにいったん家に帰った後から、半ばお決まりのようなものだがだんだんと勉強会ではなくなっていった。俺が飽きてゲームし始めたのが原因なんだけどさ。

 そんなこんなでなーなーになって、何事もなく勉強会は終了した。暗くなると危ないので夕方五時くらいにはもう解散するということだったので、俺は俊之の家に残ってもう少し勉強して帰ることにした。こういう時に隣の家って気楽でいいよね。

 もちろん藤井さんと上野さんを送ることも提案した(俊之が)が、藤井さん曰く、まだ暗くなってないから二人でも大丈夫でしょ、とのことなので普通に帰ってもらった。

 それにしても上野さん、藤井さんと二人で大丈夫だろうか。藤井さんは俺たちみたいなのをいじるのが大好きなちょっと、いや大変変わった人だと思う。そんな藤井さんが今日の彼女の様子を見て弄ろうとしないわけがない!

「おいおい樹、そんな心配そうな顔しなくても、あの二人ならそれなりに仲良くやってそうだぞ?」

 とは俊之の言。こいつが根拠にするのならそれは俺が見ていなかったあの時しかあるまい。昼食から戻ってきたときには一応聞いたが、これは俊之にも聞いておく必要があるのでは。

「なあ俊之、俺が飯食いに行ってる間、二人の様子ってどうだったんだ」

「ん? ああ、なんだか楽しそうにしてたぜ。なんか胸の話とかしてたな」

 胸の話とは一体、おっぱいか、おっぱいの話なのか? そんな中に一人いた俊之がなんかかわいそうだな。

 それにしてもおっぱいか。よくよく考えてみれば確かに男子同士での会話には猥談はつきものだ。それが女子同士で行われないはずがない。今まで考えてもみなかったが、これは万能ではないにしろ同性と仲良くなるにはいい手段かもしれない。俺には特に必要はないが上野さんには言っておいた方がいいだろう。

「……おい、樹。何を急にそんな真剣な顔になってんだよ」

「いや、猥談とはその手があったか、と思ってな」

「落ち着け樹、女子に急に猥談なんてしたらただの変態だ」

「俺がするんじゃねえよ!」

「え、いやなに、上野さんにさせようとしてるの? こいつ大丈夫か……」

 完全にドン引きですといった感じで後退る俊之。おかげで冷静になれたよ。

 こんなこと提案するなんて、セクハラですよね。


 休みが明けた月曜日の昼休み、テストは明日からで今日からしばらく彼女との昼食もなくなるわけだが。

「上野さん、なんだかとても機嫌がよさそうだね」

 そう聞いてみると、待ってましたと言わんばかりに彼女は説明を始めた。

 まあ要約すると、藤井さんと二人で帰っているときに名前で呼び合うことになったらしい。そして今日の朝も普通にあいさつができた、と。

「これはもう友達になったって言ってもいいわよね! 友達二号よね!」

 その友達二号という表現はともかく、俊之の予想は当たっていたみたいだ。さすが俊之。

「じゃあひとまず勉強会は大成功だったってことで、次なる目標を決めようか」

 そう、ここで立ち止まっては意味がない。せっかく友達ができたならそう

「次なる目標って? 文化祭実行委員じゃなくて?」

「それはそうなんだけどさ、なんていうか、藤井さんと話すときに向こうからばっかり話しかけてもらったりしてない?」

 俺も昨日は途中で無理だと思ってしまったが、取り敢えず自分から話しかけられるようにならなくては駄目だと思うのだ。

「あ~……確かに言われてみればそんな気がするわね。自分からも話題を提供できるようにならないとだめってことね?」

「そう、その通り!」

「でも、話題の提供ってまだ難しい気がするのよね。例えば私とあなたの場合、今は共通の目標があるからこうやって話せるわけじゃない? でも私、藤井さんとの共通の話題なんて思いつかないのよね。趣味とかも知らないし」

「そこらへんは今から互いに知っていくしかないというか……」

「唯一の共通の話題といえば溝部君、あなたのことくらいね」

 え、それはどういう……。

「彼女、あなたのこと弄るのが今の楽しみらしいわよ。それくらいしか共通の話題が見つからないわね」

「いや知ってたけどさ! それを共通の話題にするのはおかしいんじゃないかな! 大体藤井さんは別に俺たちがどういう関係かも知らないわけで」

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。私たちがコミュ障仲間だってこともなぜだか昨日の朝にはバレてたし」

 どうやらはっきりとはいかないまでも俺たちがどういった関係性を持っているかは簡単に見破られたらしい。まさか俊之が教えていたとか? それもあり得そうだ……。

 まあそれはともかく、

「ひとまずは試験、頑張りましょうね」

ですよね。

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