ひまり ―himari―

第1話 実験をしましょう①

「おじいちゃん先生、実験をしましょう」

 言葉だけを聞くなら、それは普通の事で扱く全うであること。

考えれば、科学の分野での何かを実験でもする、そんな言葉と受け取れるだろう。

 問題はそこではないのだ。先生と生徒の距離である。 

「…実験じゃと?しかし、その前にもう少し離れてくれんかのぅ?」

 顔と顔が、至近距離でもう愛を囁きあうほどの距離。

遠目にみれば、キスしているようにも見える。

「なら、賛同して」

 少女の顔が更に近くなり、思わず後ずさりを半歩してしまうが、少女も更に半歩、歩みを進めてくる。

 このどうしようもない状況を整理するために確認をすることを先生は打診ししてみる。

「…か…加納君、もう一度初めから説明してくれんかの?」

 加納と呼ばれた少女、名はひまり、この土地の名家生まれで多くの土地をもった地主で、いわゆるお嬢様。年は、17歳で今、高校3年である。

 容姿も、絵に描いたお嬢様で綺麗な黒髪のストレートで前髪も真っすぐにカットしてある。身長も160と割りだがで、体型もでるとこはしっかりでて、引っ込むとこは引っ込んでる。

 そのお嬢様こと、ひまりはなぜ、おじいちゃん先生と呼ばれた先生と学校の放課後に、こんなことをしているのか?


 それは昨日の夕方の学校の帰りからにすべてが始まる。


―――前日


 「ふむ、大丈夫そうじゃな」

 おじいちゃん先生が実験の成果を見て、どうやら問題もなくできたみたいだ。

 放課後、わたしは、いつもこうして、暇を潰すために科学の勉強を名目に科学の実験室にきている。

 家にいても、何もやることないし、お屋敷に親の知り合いが来れば、挨拶をする。

そんな毎日だ。

 だったら、少しでも、お屋敷にいる時間を減らす、そんな簡単な理由でクラブ活動なんてしてる。

 このクラブに所属しているのは、わたしとおじいちゃん先生だけの二人、勧誘も募集もしてない。あ~してたかも、このままじゃ来年廃部になっちゃうから。

私的にはどうでもいい、暇さえ潰せればそれでいいのだから。

「おじいちゃん先生、終わり?」

「ああ、終わりじゃ、あとはもう片付けて、帰ろう」

 おじいちゃん先生は、苗字は忘れたけど、名前はなんか田舎くさい感じで、覚えてた。

そうね、このままじゃ失礼だわね。古臭い名前かしら?変わらないかな。

まぁいいわ、しょうたろう、漢字も忘れたけど、正太郎、変換で出てきた感じがそれよ。

「おじいちゃん先生、もうすぐ帰れるの?」

「そうじゃな、今日は久々に早く、帰れるそうじゃ」


 おじいちゃん先生は見た目も話し方も、年寄りの50台くらいなんだけど、実際は40半ばだったかしら、しゃべり方が、おじいちゃんくさいから、聞いたことあったけ。

体型も、小太りで、髪も前頭ハゲっていうの?ひどい言い方ならごめんなさい。

顔は、優しいおじいちゃん目をしているわ。

特に、しゃべり方が好き。わたしの中で、ツボってるのかも。


「それじゃ、一緒に帰ろう」

「ふむ、まぁ名家のお嬢様をエスコートできるのは、男冥利じゃな」

 お嬢様、そうは言うものの、他の先生と違って、そのままの扱いをしないのも好きな理由かも。

「じゃ、お言葉に甘えて、おじいちゃん先生のエスコートに期待するわ。」

「はははっ、まぁご期待にそえる様にちと、頑張ってみるかな」

「ええ、ドキドキするくらいのをお願いします」

 わたしたちは、実験用具を片づけて、下駄箱に向かう。教員も、生徒も出口が同じだから一緒に廊下を歩くことになる。


「ところで、加納君はもう素敵なボーイフレンドでもできたかの?」

「ふふ…今から男性にエスコートをしてもらうのに、男性の話をさせるの?」

「ほっほっほ、すまんすまん、高校最後じゃろ、彼氏をそろそろ作らんと、何もトキメキがなく、卒業してしまうぞぃ」

 家が家だけに、誰も、寄ってこないなんて言えない。名家なんてめんどくさいだけ。

「わたしには、放課後毎日、男性と楽しくさせてもらうので、彼氏なんてとてもとても…」

「ぉっと、わしのせいか、これはすまん」

「そうよ、おじいちゃん先生のお世話はわたしのクラブ活動だもの」

「加納くんくらいじゃ、こうもわしを年寄り扱いするのは…はっはっは」

 お互い笑いながら、下駄箱をでて、駅に向かうのだけど、どうやら空が曇ってるみたい。


「曇っておるのぉ…急がんと降り出しそうじゃわい」

「そうね、せっかくのエスコトートもゆっくり受けられなくて残念」

 わっはっはとおじいちゃん先生の笑い声お聞きながら、お互い急ぐように歩む。


 ぽつ…ぽつ…


「お、いかん、加納君すまんが、もう少し早く歩くぞ」

「ええ、急ぎましょ」

 わたしたちは、急いで駅に少し走るように、でも無理だった見たい。

向かう途中に本降りなってしまった。

 仕方ないので、近くのバス停の停留所で雨宿り。

雨が小雨に変わるのを待つ状態になってしまった。


「ふー、我慢しきれず降り出しおった」

「ほんとに…」

 雨宿りをしながら、お互いハンカチで顔や服を拭いて空を眺めている。急におじいちゃん先生が、わたしをみて、また空をみる。なにかしら?

「おじいちゃん先生?」

「あぁ、すまんが、これを羽織ってくれ」

 と、おじいちゃん先生はスーツのジャケットを渡してくれた。それでわたしも、あー、なるほど、ピンときた。

「ふふ…さすが、紳士だね」

 どうやら、ブラウスが雨に濡れ、わたしの下着が見えてたみたい。

「ほっほっほ、紳士の務めじゃ」

 おじいちゃん先生は満足そうだ。


 わたしは少し…トキメキを感じてた。

「雨、止むかな…」

 


―― その言葉とは違う、もう少しだけこうしてたいな そんな気持ちがあったりした。

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