第4話
西紅の合格発表の日、私はお母さんに抱きつきながら、人目も憚らず大声で泣いた。
一人で見に行くのはどうしても怖くて、でもこの高校を受けたのは、うちの中学ではたったの五人だけ。
それほど社交的でない私は、この五人のうち知り合いと呼べるのは藤倉君ただ一人だった。
『一緒に見に行かない?』
勇気を振り絞って打っては、やっぱりダメだと消し、何度も私を迷わせたラインは、結局送れぬままその日を迎えてしまった。それにもし自分だけが落ちていた場合、余計な気を遣わせる、そんな思いもあった。
だけどそれが杞憂に終わったことを、私は震える手に握られている受験番号を見つめながら噛み締める。そうなってしまえば、やっぱり彼と喜びを分かち合えなかったのはちょっと寂しいな、なんて思ってたりするんだから、私も大概現金だ。
でもそれ以上に、合格を夢見て、それこそ血反吐が出る思いで頑張った私は、今までの苦労が報われたことに感謝した。
一番近くで私の頑張る姿を目にしていたお母さん。最期までやり遂げた私を誇らしそうに見つめるその瞳にも、光るものがあった。
『受かっても、その後勉強についていくのに必死で高校生活を楽しめない、そんな風になるなら、少しランクを落として女子高生を満喫する、そういう選択もあるわよ?』
見かねたお母さんが零した台詞。これに誘惑されなかったわけじゃない。
藤倉君と一緒の高校に行って具体的にどうするのかなんて、全く決めてなかった。告白でもする? 何度か自問したけど、いやいやとてもじゃない、そんな勇気はなかった。同じクラスになれる可能性の方が低いようにも思えたし、ただの中学の延長になるだけなのかもしれない。それこそいろんなことを考えた。
でも最後にはやっぱり、どんなことがあっても近くにいたい、近くで彼を見ていたい、そういう結論に達したんだ。
発表のその日は、もしかしたら藤倉君に会えるかもしれないと少し期待したのだけれど、残念ながらそれは叶わなかった。
有名進学校だけあって、数多くの受験生が、親や、果ては塾の先生だろうか、鉢巻きを頭に巻いたスーツ姿の人と抱き合ったり泣き合ったりしていて、そんな悲喜こもごもの中から彼一人を見付けるのは、至難の業だ。
結局その日も私からラインを送り、お互いの合格を喜び合って終わった。
思ったよりもそっけない返信に、自分ばかりが思いを寄せている、そんな当たり前の事実を改めて突き付けられた気分だった。
そして、現実は更に厳しかった。
入学直後に行なわれる実力テスト。進学校の名にふさわしく、喜びの余韻に浸る間も、友人すら作る間もなく、それはやってきた。そして、その結果がそれから一年間、在籍することになるクラスを左右するという、私にとっては残酷極まりない代物だった。
いくら頑張って勉強しても、所詮は付け焼刃。そんな言葉で、あの血の滲むような努力を片付けたくなどないけど、それが現実だった。
中学の二年数カ月を棒に振って過ごした私は、どんなに頑張ってもD組が精々。そして藤倉君は言わずもがな、A組となった。
あろうことか、私たちは階さえ違った。
学年など関係ない。実力ある者が上へ行き、無い者は下で悔しがるか指を銜える。そんな社会の縮図のようなクラス分けに、頑張った日々が無駄に思えるほど彼との接点はなくなってしまった。
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