待ちぼうけ
昼飯を一緒に食って街をぶらつく予定だったが、飯は間に合わないからあとで合流すると言われて、仕方なくファーストフードを腹に詰め込む。
別に女とじゃなくて男友だちなんだから、飯が食えないのは別にいい。ただ、連絡が遅いとは思う。俺は十五分前にはもう待ち合わせの店の前にいて、マサから連絡があったのが約束の時間の十五分後。俺は三十分もスマホのニュースとにらめっこしてた訳だ。
まあ、ランチがファーストフードになった事で少しだけ無駄な出費が減ったのを良しとして、近くのコーヒーショップで熱いコーヒー。
店員もまあまあ可愛かったし、空いた時間で普段は見ない芸能ニュースもじっくり見れた。
日曜の窓の外の街は人いきれで満ちている。
店内に緩く温風が流れている事に気づいて、そうか、夏はもう過ぎていたんだなと知る。
秋。好きな季節だ。自分の着る服に自由がきくし、通りすぎる女の服装も見ていて飽きない。
ただ、人待ちは好きで嫌いだ。
今日は嫌いな方の精神のコンディションらしい。それは、俺が今日という日を楽しみにしていたからだろう。マサの方から誘ってきて、あいつはやけに楽しみにしていて、そんなあいつの様子を見ていたから、いつの間にか俺の方が楽しみにしていたようだ。
会社の後輩と、プライベートも仲良くなるなんて初めての経験だ。いや、同期でもそんなやつはいないか。
線引きとか話題とか、いくつかの制約はある物の、マサといる時間は楽しい。お互いの立ち位置を忘れそうになるし、なんなら普通の友だちみたいな感覚で、いつかもっと仲良くなったら、本当にただの友だちになってもいいくらいだ。
二人でいる時のタメ口が心地良いし、ツッコミが斜め上だし、大事な場面ではきっちり先輩と後輩だし。
ひいき目だが、しっかりしたやつだと思う。完全に三枚目だが、モテるのも分かる。
俺は仕事とルックスでモテるタイプだから、種類の違う人間の魅力は新鮮に映る。
ブラックのコーヒーが底をついて、せっかくだから違う物を注文した。
五十分か。マサにしては珍しく大きな遅刻だな。
今朝帰ったばかりの恋人とのラインも区切りがついて、二杯目のコーヒーもなくなり、人前で音楽やゲームをするのが嫌いな俺はさっきから店の入口ばかり見ている。
待つという時間の使い方が、俺は下手だ。
待つ以外の事ができない。本を読んでも集中できないし、人間観察もすぐに飽きてしまう。
子どもの頃は、ぼーっとするのが好きだった。夜明けのあのオレンジ。染まる雲。指先の冷たさと、それを温めるマグカップ。
叫び出したい、風の先。
ノスタルジックな回想から覚めて腕時計から目を離すと、遠目からでも分かる、マサの大きな体が、駆けてくるたびにまた大きくなって、店の自動ドアの前でじれったそうに足踏みするのが見える。
俺は待つという時間の終わりと、笑えるあいつの顔を見て、手を上げて口の端をほころばせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます