第14話 部活始まりました
部活作成の許可が完全に下りる少し前。
もう申請が受理されることは確定だから、先に部室を確認しておけと、部室となる予定の空き部屋に案内されていた。
必要な物等は予め持ち込んでおいて良いらしく、俺と伊根町、及び他の副部員達の要望に沿って自由にカスタマイズさせて頂いた。
まず漫画。俺が持ち込んだ。相談に来る生徒を待たせることになってしまった時に、時間を潰してもらう用だと説得すると何と持ち込むことを許されてしまったのだ。
次にお菓子。伊根町が持ち込んだ。冷蔵庫に入れる必要のない物をスーパーなどで大量に買い、棚にしまった。
相談に来た人達のおもてなし用だと説得するとこれまた許可を貰うことが出来た。ついでにこれに加えて、伊根町は毎日手作りのお菓子を持ってくるらしい。
そしてソファ。舞鶴が持ち込んだ。学校への弁解は、相談に来た人達も心地よく悩みを打ち明けられるのではないかというものだ。
ここまで来るとどこまでいけるのか半ばネタで持ち込んでいるのだが、これもまた認可されてしまった。
相談に来た方の為、という大義名分があれば何でも叶う気がする。
他にも不便の無いよう備品を用意した所で、ちょうど部活の申請が受理された。
これはもう自由の校風というより放任主義というべきではないだろうか。
********
ずずっ。
今日は六月十一日。初めて部活が動き出した日である。
ぽりぽり。
今はもう授業を終えており、放課後になった為、伊根町と二人部室にいた。
ずずっ。
俺はお茶をすすり。
ぽりぽり。
伊根町はポッキリを食べている。
まあ、こうなるだろうなとは予想していた。こんな初日から、生徒達がやってくる訳がない。
宣伝用のポスターも作り校内のあちこちに貼らせてもらったのだが、効果がどれほどのものかは分からない。
今日は来ないだろうと、高をくくっていたその時だった。
コンコンと、ドアがノックされる。
俺は慌ててお茶を飲むその手を止め、伊根町はポッキリを食べるのを中断し、鞄へ仕舞った。
「どうぞ」
入って来たのは時期に似つかわしくない厚着をした女性だった。探偵が装備してそうな帽子を被り、サングラスをかけ、茶色の長め丈のコートを羽織っている。背中には長い黒髪が流されていた。
いや、というかあの長い黒髪。少し男勝りしている雰囲気。そしてこんな格好で学校に来て通報されない人間など俺は一人しか知らない。
「何してんすか京子先生」
「私はそのような者ではない」
否定されてしまった。声は作られており、いつもより低くなっている。
「ポスターを見てやって来た。ここでは悩みを解決してくれるそうだな」
「生徒でないあなたの悩みは解決出来ません」
キャッチコピーでも、生徒の皆さん、と呼びかけている。
「御託はいい」
「すいません」
怒られた。
京子先生は部室に入ってくるなり、ソファにどさりと座る。
コートぐらいは脱いでくれません?
一応これでも客は客だ。伊根町は京子先生に振舞う為のお茶と和菓子を用意し始めた。
「ここは暑いな」
「……」
ツッコむ意欲もない。
「さて、本題に入ろう。私の悩みというのはな」
ごくりと息を飲む。どんな相手だろうと、初めての相談客なのだ。
俺達の活動内容は、カウンセラーのように悩みを聞いた後、助言するだけではない。解決までの糸口を見つけ出し、それを相談者に示してこその人助けだと思う。
伊根町もおもてなしを用意する手を止めていた。最初に俺達が受けた相談内容は。
たっぷりと時間をかけ、京子先生は重く口を開いた。
「結婚が、出来ないんだ」
「伊根町、そろそろお帰りになられるそうだ。廊下まで見送りに行ってくれないか」
「分かった」
「ちょっと待て!!」
どうしたのだろうか。伊根町共々不思議そうな目で京子先生を見つめた。
既に彼女は元の声に戻っていた。焦りが伺える。
「いいか、今回はお前達がどれだけ部活動に励んでいるかテストも兼ねている。ここで断れば、この部活は新設されてすぐだが即廃部もあり得るだろう」
「そうですね。やはり普段の立ち振る舞いに問題があるかと思われます」
「変わり身早いな!!」
「あまり大声を出すと廊下まで聞こえてしまうので、少しトーンを落として下さい」
大声で周囲に迷惑をかけてしまうのは良くないだろう。道徳的にも、部活の評判的にも。
「……すまなかった。具体的に何がいけないのか教えてくれ」
京子先生が怒りを堪えて話の先を促した。珍しいこともあるものだが、よっぽど結婚が出来ない理由が知りたいのだろう。
「まず初めに。先生の顔やスタイルは比較的高水準に位置するかと思われます」
「そんなことを言われても何も出んぞ」
とは言いつつ体をモジモジさせていた。嬉しかったらしい。
「しかしそれではカバーし切れない程に性格に難があるかと。我慢が出来ず、すぐに切れてしまう点。ガサツで女性らしさに欠ける仕草や態度。化粧が荒く、髪の手入れもあまりされていない。普段如何にだらしない生活を送っているのか分かりやすいですね」
「そこまで言わなくても良いだろうがぁ……」
京子先生の声が萎む。サングラスを外し、ぐすりと泣き出してしまった。
「帰る」
「え」
京子先生は、目元を腕で拭いながらソファから立ち上がりそのまま部室を出て行く。
ドアの閉まる音をぽかんと聞いていた。
廃部にならないだろうかと、それだけを気がかりに、冷めてしまったお茶を飲み干した。
翌日。
伊根町と福知が用事がある為、立也と舞鶴は二人ともサッカー部がある為にこちらに来れず、一人で部活動に励むことなった。
昨日から何も連絡が無いので、恐らく廃部は免れたのだろうと考えつつ、借りてきた鍵を使い部室を開放した。
早速昨日と同じように、お湯を沸かし、お茶を用意する。漫画を手に取り暇つぶしをすることとした。
ドアには「入る時にはノックして下さい」と書いた紙を貼り付けているので、ノックをされた時に漫画をしまえばいい。
程なく、コンコンとドアが叩かれる音がした。昨日といい、思ったより退屈しないなと漫画を片付ける。
声をかけ、入るように促すと、肩を狭めて入って来たのは福知だ。
「あれ、今日は用事があるんじゃなかったのか?」
福知は何かを躊躇う素振りを見せる。彼が口を開くのを待っていると、おずおずと話を始めた。
「その、実は相談したいことがあって。それが用事っていうか……」
これが正式な、「お悩み解決部」への最初の依頼だった。
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