大崩海岸を抜けて

冬春夏秋(とはるなつき)

大崩海岸を抜けて

 静岡県焼津市と静岡市を隔てる高草たかくさ山。海に面した側の終端は『大崩海岸おおくずれかいがん』という。


 その大崩海岸に、駿河湾をなぞるように伸びた道路、旧国道一五〇号線。現在はバイパスが通り、県道四一六号線となっている。


 昔から愛され続けた道であり、同時に『大崩』の名前の通り、数々の崩落事故を繰り返した海岸である。


 先の見えない急カーブは多くの走り屋たちを魅了し、L字を逆さまにしたかのようにそびえる道からは崖下の大地は見えず、そういった面から心霊スポットとしても一部に有名な、いわくと利便が共存している奇妙な道。


 時代に棄てられたレンガ造りの廃線トンネルも、いわゆる廃墟好きに人気があるそうだ。


 今回はそれらとは別。『絶景』を紹介したいと思う。


 どうか、安全運転を心がけて西――焼津側からこの海岸道路を越えていただきたい。


“トンネルを抜けるとそこは雪国であった”、なんて川端康成の出だしのようには、雪とは無縁の静岡県に望めない。けれどそれに劣らないだけの感動は、確かにある。


“トンネルを抜けると海に橋がかかっていた”。どうだろう。その海上に立つ橋は『石辺せきべ海上橋』という、大崩海岸を大きく迂回するように作られた一本の海上道路だ。陸側を見れば抉れた大崩の威容を。反対側は駿河湾を一望できる。


 橋の全長は三百mを超え、晴れた日にはそのまま富士山が見え、静岡県の東端、伊豆半島までもその目に入ることだろう。夜間には――もちろん安全面から当たり前に――ライトアップされ、夜を走ることも恐ろしくは感じない。


 新年になると、私は休みを合わせて、学生時代からの友人と、この景色を拝みに大崩海岸を越える。


 変わらずにいて欲しい景色。私にとってのそのひとつを、見知らぬ誰かとそっと共有できたのなら、嬉しく思う。


 東から昇る朝日が海を銀色に飾る、瞬間よりは少しだけ長い間を、どうか。



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大崩海岸を抜けて 冬春夏秋(とはるなつき) @natsukitoharu

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