消えたカメラ

社会人ランニングサークル「川沿走ろう会」のメンバー5人は、先日行われたマラソン大会の慰労にと、コテージを借りて旅行に来ていた。社会人サークルと言ってもみんなの同じ会社のタカシとケンゴが後輩3人シュンヤ、ヒロキ、マサシを誘って集まっただけで、みんな20代半ば気心の知れたメンバーだった。

山奥の不便さはあったものの、近くに他の建物はなく夜遅くまで騒いでいても周囲に迷惑がかからないのが魅力だった。



昼過ぎに車で到着し荷物を下ろすと、早々にバーベキューという名の酒盛りが始まった。全員が酩酊するまでにそれ程時間はかからなかった。コップも箸も途中から誰の物かも分からないまま使っていた。

その中に一台の一眼レフカメラがあり、スマホとは別にそれをみなで使い回して写真をとっていた。


宴もたけなわ日も傾いて来た頃、タカシが言った。

「おい、カメラがないぞ」

確かに4人が見ると、さっきまでテーブルの上にあったカメラがなくなっていた。

「誰がとったんだよ」

疑い合っても仕方がないし、外部から誰かが来たとは考えにくい。みんなでカメラを探すことにした。

それなりに広いコテージだったが探す場所は限られていたし、念のために複数人で各々の荷物もチェックした。

それでもカメラは見つからなかった。


「コテージの周りもなかったよ」

「外の林の中に投げ捨てられたか、もう暗いし明るくても見つけるのは難しそうだな」

カメラを見つけ出すのは、ほぼ不可能に思われた。

ところが奇妙なことが起こった。

「きっと見つかるさ。気を落とすなよタカシ」

「は?俺のじゃねえよ。てっきりケンゴのだと思ってた」

「あんな高そうなカメラ持ってねえ。じゃあ三人の誰かのだろ?」

「え?」

「僕のでもないんだけど…」

全員が顔を見合わせた。

どう話を突き合わせてみても、みんなで回して使っていたカメラが誰ものか分からなかったのだ。


「なんか気味悪いな」

「一回、片づけるか」

そう言って一度バーベキューの片付けをして、順番にシャワーを浴びることにした。

シャワーを交代で入りながら部屋で飲みなおしなして、少しずつまた楽しい雰囲気になってきた。

ところが、最後にシャワーを浴びていた、一番年下のマサシが青い顔をして戻って来た。

「みんな。これ」

そういって差し出された手には、さっきまで探していたカメラがあった。

洗面所や風呂場は何度も探した。着替えに潜ませて、こいつが隠していたのか。

そんな考えが4人の頭をよぎったが、年下の彼がそんなことをするようにも思えなかった。

「じゃあさ、このカメラの写真見てみないか。持ち主とかヒントになるものがあるかもしれない」

ケンゴが言った。確かに昔の写真データが残っていることも考えられた。全員がうなづき写真を見ることにした。

カメラの背面にあるディスプレイを操作し、写真を検索する。

残念ながら一番古いものでも、今日の昼の写真だった。バーベキューの準備をする3人が映っている。他の写真も今日の様子ばかりで、自分たちが撮影した記憶のあるものばかりだった。

ところが、枚数を進めていく内に、背後に奇妙なものが映るようになった。

「この赤いのなんだ?林の奥にあるやつ」

「Tシャツ?誰か赤いTシャツなんて着てたか」

顔は暗くてよく見えないが時間が新しいものになるにつれ、写真には赤い人影がはっきり写り込むようになっていた。

「どんどん近づいてきてないか…」

写真の影は木々の奥から、少しずつコテージの方に近いところで写るようになっていった。人影はどんどん近づき、コテージの建物の物陰に写るようになった。

次に写った時には、もう建物の中に人影が入り込んでしまうのではないか。そんな距離だった。


そして最後の写真が表示された。

そこには、5人が室内で片付けをする姿が写っていた。

赤い影は、見えなかった。


「ビビったあ。心霊写真じゃん」

「部屋の中に写ってたらどうしようかと思いました」

「このカメラは使わないほうがいいな」

「もう誰がとったとかどうでもいいわ」

4人から口々に安堵の声が漏れた。


ところが。

「なあ、誰がとったんだよ」

タカシが言った。

顔は強張ったままだ。

最後の写真を指さしている。

カメラがなくなっていた時刻、5人全員が写った写真。


「この写真。

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