僕と先輩と写真と
高台の公園
夏の始めに差し掛かり、日も少しずつ長くなってきていた。
今日は放課後に学校を出て、坂道の下のバス停方面ではなく坂道を上がっていったところにある高台の公園に来ていた。
学校の裏手の森をさらに上がっていったところにあるこの公園は、広場とさらに森の奥へと続く遊歩道の入り口があり、自分たちの町を一望できる恰好の場所だった。
眼前に広がる町の向こうの稜線に夕日が少しずつ近づいて、景色がオレンジ色に染まっていくのが見えた。
「絶景だね」
先輩はそう言うとウキウキの笑顔を僕に向けた。
「まるでデートみたいだと思った?」
確かに休日こそ少なくない人が訪ることがあるが、平日の夕方となれば閑散とした広場とベンチがあるだけの公園だ。その人気の少なさのため、放課後のちょっとしたデートスポットになっていると聞いたことがある。ただ。
「いや、今はちょっとそういう気分にはなれないです」
「どうして?」
陰鬱な表情の僕を見て、先輩が不思議そうな顔をする。
「今日は何をしに来たか覚えていますか」
「もちろん。心霊写真を撮りに来たんだよ」
そう、今日は心霊写真を撮りに来たのだ。
この高台の公園は、昔から出ると言われている。曰く、落ち延びて命を絶った侍の亡霊だとか、身を投げた女の幽霊だとか、そういう類のものだ。とっ散らかった話の数々から分かる通り、真偽のほどは定かではない。
「ほら、デートだと思って心霊写真撮りに行こうよ」
「先輩、それ自分で言ってておかしいなって思いません?」
そんな抗議は歯牙にもかけず、先輩は僕を連行していき、木陰とか茂みの奥とかの暗がり目がけてバシャバシャとスマホのカメラで撮影していった。
「どうしてわざわざそんな不気味なものを撮ろうとするんです」
「えー、気にならない。本当にここにお化けがでるか」
「なりません」
どうして藪をつついて蛇を出そうとするのか。貴重な青春の1ページをこんな不毛なことに使って。先輩、他にすることはないのですか。
僕の隠そうともしない嫌そうな顔が先輩にも見えたのだろう、先輩の顔がいつもの不気味な笑顔に染まっていく。
「まさか、怖いの」
「リアルにお化けをとって嬉しい人がいるんですか」
「いるんじゃない?私とか」
「僕は苦手です」
僕は正直に答えた。先輩に伝わったのか、うんうんと頷いてくれた。
「仕方ないなあ。もし変なのが写ったとしても、消しゴム機能で消してあげるよ」
「それって安心できる要素あります?」
何も伝わっていなかった。
先輩はひとしきり笑った後、またスマホを構え辺りを撮影していた。
そうしていくつか写真を撮って眺めた後、先輩はこちらを向いて言った。
「ねえ、知ってる?」
写真をとっているし今日はないかな、なんて思っていたが。そんなことはなかった。
「消えたカメラの話」
「知りませんよ。写真、撮らなくていいんですか」
話を逸らそうと思ったけれど、当然のことながら上手くいかなかった。
先輩はいつものように話し始めた。
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