DQ 序章「扉が開く時」

千馬章吾

DQ序章「扉が開く時」

     …ル……ベル……………?

     アベル……アベル……私の声が聞こえますね?


 気が付くと自分は、洞窟の中にいた。そこは、寒くも無ければ、涼しくも暖かくもなかった。丁度中間かも知れない。しかし向こうに見える出口からは、暖かそうな光が差し込んでいた。寧ろ暖かいかも知れない。

 そして、聞き覚えがあるような、ないような声。この場合は、”ない” と言う場合が多いと考えて良いものだろうか。

でもとにかく行ってみるか。そう考えた。

これは、夢だろうか?どうだろう?夢にしては、リアル過ぎないかとこの時思ったのだ。

夢日記を付けている訳でも右脳がそう発達している訳でもないのに、いきなりこんな風なリアルな夢を見たりするものだろうか?


自分は昨日何をしていたのかさえ、思い出せない。落ち着こうか。でもここが現実世界でない事は確かだった。それに気付けたなら、自分はこの夢をコントロール……は矢張り出来ないようだ。

まだ「夢」とか言えるものかどうかさえも分からない。決め付けてもいけないだろう。

 待てよ……?

もしや、これは、 「臨死体験」 だろうか?

臨死体験と言うのは、事故や病気等で死にかかった人が、九死に一生を得て意識を回復した時に語る、不思議なイメージ体験である。三途の川を見た、御花畑の中を歩いた、魂が肉体から抜け出した、死んだ人に出会ったと言った、一連の共通したパターンがある。

臨死体験とは一体何なのか。その意味づけと解釈を巡って様々の議論がある。

一方には、これをもって死後の世界をかいま見た体験であるとし、臨死体験は魂の存在とその死後存続を証明するものであるとする人がいる。

臨死体験をした事がある人の話によると、「ただの夢とは思えませんでした。夢にしてはリアル過ぎると思ったのです。暗い場所を抜け出したかと思ったら、御花が辺り一面に一杯咲いていたんです。向こうには光が溢れており、その溢れる光の群れによって地平性がまるでそれに塗られたように見えなくなっていました。誰かの呼ぶ声を後方に聞いたので振り向くと、病院の病室のベッドの上でした。横で見守っていた夫の呼び声が、あの時の声に反映していたのだと思います。」

と言う事だ。


 その後、本によれば「死後の世界は存在するのならば、苦しみのない世界で亡くなった身内や知り合いの人達やペット等、そんな皆さんの仲間入りをする事ではないでしょうか。ならば死を恐れる必要が無くなりました。」と言う説と、「死後の世界は存在しない。脳のインパルス(電気信号)が停止する。神経伝達をする回路が無くなれば後は何も無い。生まれる前と同じ状態になるものである。」と言う説がある。

「あの時、ベッドの上に横たわっている自分の姿を確かに見下ろしていた。」と証言する人も何人かはいるが、まだはっきりした事は解明されていない。

体外離脱(よく幽体離脱と言われる)をしたと言う現実体験説と、やっぱり夢で見るような、潜在意識の中にある自分のイメージが映し出された幻覚と言うものに過ぎない、と言う脳内現象説がある。それは多くの専門家によっても意見は分かれ、賛否両論のままだ。

 大宇宙の全ての原理を解明する事と同じように、この世界の人類があるうちに実証されるのかどうかすら、自分も期待は出来ない。


まあ堅苦しい事は後にして、今はとにかく行ってみる事だ。


洞窟を出ると、そこは断崖だが、恐怖は感じなかった。晴れ渡って明るいと思える空の色は、眩しくて見えない。ではやっぱり現実でもただの夢でもないのか。前方には巨大な滝が広がっていた。初めての筈なのに、懐かしい感じがする。複雑で不思議な気持ちだった。

 人間の中にも、異なる気質や要因が混合して所存しており、掴みどころが困難であったりする。だから人の心や身体は複雑なのだ。


 そこでまた声がする。


アベル。私がこれから貴方に幾つかの質問をしますので、正直に答えて下さい。

難しく考えず、素直な気持ちで答えて下さい。

 そうすれば、私は貴方を更に知る事になるでしょう。

 では、始めましょう。

一つ目の質問です。


「貴方にとって太陽とは、自然の王様ですか?」


「ん…………はい。」

          …………

          …………。


 この後、色々な問いを受けて、自分はあるがままに答えた。

これで良いのだろうかと考えたりもした。

 するとまたあの謎の「声」は言った。


これで貴方の考えている事はよく解りました。

では、これが私の最後の質問です。


辺りの風景が揺れるようだ。このまま画面が、そう、夢?の中の場面が切り変わるのか。何処へ行くのだろう??


 ん?ここは一体全体、何処だろうか?場所は分からないが、森の中のようだ。

左右は木々ばかりで、自分はその真ん中の広い道に立っている。

 取り敢えず前へと進んで行く。

 何とそこには一人の老人が立っており、老人の背後は、巨大な岩が二個もあって、通路は塞がれていた。このままあちらは通れそうにない。

すると老人は口を開いた。

「どうしたのじゃ?少年よ。道に迷われたかの?この森林を抜けたいなら、向こうを真っ直ぐ行けば良いぞ。では気を付けての。達者でな。」

「ありがとう。御爺さんも御元気で。」

と自分は礼を言う。

すると老人はまた付け足した。

「お、そうじゃ。この先に丸い岩があれば、運んで持って来てくれるかのう。きっと礼はするぞい。」

と言う。

そして自分は先へと進む。老人がいた所と反対側の道を行く。

暫く行くと、岩が落ちていた。

これを運んで持って行けば良いのかな。

よし。まあ例え夢だろうと何だろうと、「旅は道連れ、世は情け。」さ。

爺さんの為だ。御年寄は特に大切に、と。悪い人でもなさそうだし。

そう思うのが自然だろう。


「おお、御苦労じゃ。ほい。これは御礼じゃ。」

「どうも。」

10ゴールドを受け取った。

嬉しいけど、先を急ごう。


あれ?!

また同じ場所に岩がある!?

 まあどうせ夢みたいな世界にいるんだし。

 もう一度ぐらい持って行ってみようか。

更に御礼の10ゴールドを受け取って引き返した。

戻るとまた同じ丸い岩があった。

また持って行った。そしてまた10ゴールド貰った。

まさか、……やっぱりだ。またあった。よし、もう一回。

まただ。持って行こう。

これ、ひょっとして無限かな。俺が倒れるまでは……。間違いないように思えて来た。そろそろ切りを付けようか。うん。ボチボチ爺さんも満足じゃないかな。

もう7回ぐらい運んだな。金額が増え、20ゴールドもくれるようになった。

ええと、そうそう。ラッキーセブンで7回。これで終わりにすれば良いよ。

でもそう言えば、遥か北東にあるジパングと言う小さな国では、8と言う数字が末広がりの「八」として、8が一番縁起良いと聞いた。

でも自分の住んでいる国では、7が一番で、6が3つ揃うと不吉な悪魔の数字なんてジンクスになってる。それぞれの文化があるし、同じ人間でも十人十色だ。

価値観は人それぞれ異なるが、悪は許せない。それでも絶対悪はあるのか?いや無い。


お、光が見えた。森の出口だ。


するとまたいつの間にか、あの滝のある岬のような場所に戻っていた。

そして響くあの声によって、こう言われる。


「貴方は結構、『苦労人』のようですね。」と。


自分の性格は要するに苦労人……?まあそんなところもあるかも知れないな。

「さあ行きなさい。アベル。もう朝が訪れます。そしていつかまた会いましょう。」

周囲の映像が消えて見えなくなるようだ。


「起きなさい、起きなさい。私の可愛いアベルや。」

「ん…ん…。うん。」

母が俺を起こす声。優しく揺さぶられている。

ここは、自分の小部屋の布団の中だった。

「起きたのね。さあ、早く着替えて行ってらっしゃい。今日は貴方の16歳の誕生日を迎える日よ。御城へ入る時も、ちゃんと挨拶するのよ。王様に挨拶をしに行きなさい。」

「そうだな。母さん。」

「さあ、先ず顔を洗って来るといいわ。」

井戸から組まれていた桶の水で顔を濡らすと、全てを思い出した。

ここは、アリアハンと言う村だ。王様に、旅に出る前の挨拶をしなくてはならない。

自分は16歳の少年アベル。

魔王バラモスが現れ、世界の支配を告げて来た。

そこで俺の親父オルテガは、バラモス打倒の旅に出た。俺も16歳になった。

これまでに鍛錬した成果を見せる時だ、だからその時はアベル、御前も行け、と、バラモスの野望を打ち破るのだ、と。選ばれた勇者として…………。

父からは剣術を、祖父からは魔法を基礎から教わった。父も祖父から魔法を教わっていたらしい。

 親父は勇敢だった。だから半年程前、一人で旅立って行ったのだ。俺も16歳になると、冒険に出れると話していた。

 知勇兼備の親父を見習って自分も今日行くのだ。

先ずは王様の所へ、か。

そして外へ出る。日差しが眩しかった。湿った土と草の匂いがする。爽やかだけど、まだ何かある。

天気は良い。でも今広がった、この空の青さは、誰もが同じ色と、感じる事等、出来るだろうか。バラモスによって、黒く染められるのが嘘のように感じる。しかし、そう思うのは昔の話であって、今は違う。光の奥に必ず影は潜んでいる。


 気が付けば、自分は何故か、酒場の前に来ていた。ルイーダの若い女性が、優しく出迎えていてくれたが、御城へも行かずに、こんな所に立ち寄った自分は何なのか。

 傍から見ていた村の人のうちの何人かは、俺を「捻くれ者」と思っただろうか。

 これも一つの選択だろう。御城へは後でも行けるだろう。

 ここで旅の仲間を見付けられる、一人旅はまだ危険だ、とたった今、そこのテーブルの隅の席に座っている男性から忠告を受けた。マントと剣がよく似合う2枚目の紳士だ。話を聞いたところによると彼も昔は冒険家だったそうだ。

戦士や僧侶や気の良い盗賊と旅をした、特に僧侶が我儘で困った、とか色々語ってくれた。


 「坊や、仲間をお探しかしら?なら御二階のカウンターへ行くと良いわよ。詳しい名簿を見せてくれると思う。そこに載ってあるから。ふふ。」

二階、か。行ってみよう。

奥の階段を上る。

「どのような人物を御捜しでしょうか?」

「そうですね。」

「ん、おぬしはアベル君じゃないかね?」

「せ、先生!ライト先生!」

そこに座っていたのは、幼少の時、魔術の原論を教えてくれた、ライト先生だ。外れに家がある。もう70を過ぎた御爺さんだ。

「旅に出る日じゃろ。ならば、わしの弟子ブライトを連れて行ってはどうかね。頼りになるぞい。」

「やあ、君がアベル君か。ブライトだよ。宜しくね。今年は38歳さ。」

「宜しく御願いします。」

「アベル君を宜しく頼むぞ。ブライトよ。」

「はい。ライト師匠。」

「ブライトは多少慌て者なところもあるが、面倒見が良いぞ。いざと言う時には、魔法の力で色々助けてくれるじゃろう。」

「アベル君。他にも誰か連れて行くのかい?」

とブライトは訪ねて来る。

「ええ、まあ…………。」

「戦士様を連れて行くなら、私の古い友人を紹介しましょうか?」

とカウンターの男は言う。

「何処におられるんですか?」

「レーベの村まで買い出しに出掛けており、もうすぐ帰って来ます。この日をずっと待っていたそうです。」

「そうですか。」

と俺は答えた。

「只今。やあ、これで良いかな。」

七三分けのがっしりとした2枚目の男だ。20代後半ぐらいだろうか。

「ああ、御疲れさん。御礼にまた一杯奢るよ。」

「サンキュウ。」


「そうか。待ってたよ。じゃあ行くか。」

「彼は、優れた剣の腕の他、魔法の事以外には色々と博識があります。私も勉強も運動も昔から好きじゃなかったので、こんな単純な仕事しかしていませんが。顔もよくないですしね。中々の切れ者なので知恵袋としても力になってくれると思いますよ。」

「そんなに自分を卑下するなって。ブルース。宜しく、まあ歴史や地理、昔の哲学者については、俺に何でも聞いてくれると良いよ。俺はジョニーだ。宜しくな。」

と戦士のジョニーは言う。

「はい。アベルです。宜しく御願いします。」

「もう一人いた方が良いですね。」

「あ、すいません。時間がないので、先に御城へ行って王様に挨拶をしに行きます。」

「王様に……。そうですか。解りました。」

「俺も門の前まで送るよ。」

とブライト。

「俺も。じゃあな、ライト。また戻って来るよ。一杯やって行くか。」

とジョニー。

こうして一旦、酒場の外へ出た。

城へ急いだ方が良いかも知れない。ここの王様は温厚で誰からも好かれる人なので、少々遅刻しても絞られはしないと思うが、あんまり遅くなると悪い気がしたからだった。

アベルは、責任感は昔から強かった。時たまそれが裏目に出る事もあったが、めげずに頑張るのがアベルの良いところだ。硬派で人に惚れた事も未だに無かったが、出会いはいつかあればと考えなくも無い。

「君、御城へ行くのか。」

「え?ええ。どうも。」

「御前はアベルだな。」

「どうして僕の名前を?」

「噂で色々聞いているよ。俺の名はサム。元盗賊で、今もまあ盗賊なんだが、悪い連中からしか盗まない。義賊のようなものと言っておこうか。何れは何でも屋として働くつもりでいるんだ。世界中を旅して盗賊の鍵を求めてやって来た。それがどうも、あの海の向こうに見えるナジミの塔にあると聞いてやって来た。」

「あ、あの塔ですか。」

「そうだ。行った事ないだろう。今は魔物の巣みたいなものだからな。あの最上階に眠っていると言う話だ。そう言えば、城の裏口から入って牢屋を見て来たんだが、バコタと言う盗賊が入れられていた。どうやら、あいつが盗賊の鍵を作ったらしい。」

「存じております。」

「タフで頭の切れる奴だったが、とうとう捕まったようだな。」

「牢屋の囚人の皆にも挨拶ぐらいして御話を聞いて聞こうと思っています。」

とアベルは言う。

「それが良いだろう。そうだ。邪悪の化身バラモスの所に行くなら、牢屋でも何でも開けられるマスター・キーのような物を見付ける必要もあると俺が断言してやろう。最後の鍵とでも何でも呼べるけどな。はっはっ。」

と、ここで初めて義賊サムは微笑をした。

「助言をありがとうございます。」

「礼には及ばんよ。」

「は、はい。」

「そうだ。いつか牢屋を開けられる鍵を見付けた時の話だが、あのバコタは助けても、多分無駄だと思うよ。あいつ、何でも一人でやりたがる一匹狼だからな。他人の施しは受けない、といつも言ってた。」

「知り合いだったんですか?」

「まあな。親友ではないがな。昔、あいつが盗んだ総額は計り知れない程だ。やっと捕まったんだ、とな。」

「へえ。」

アベルは目を大きくして驚く。

「そうだ。俺も行ってやろうか?」

「え?良いんですか?」

「ああ。観察力と洞察力、推理力、素早い動きはこの俺に任せな。損はない。敵の急所を突いて、一撃でモンスターを仕留めた事もある。熊とかでもな。」

「何か企んでないか?」

とブライトは背後から小声で言うが、

「そんな事ないよ。疑り深いね、君は。信じてみようや。」

とジョニーはブライトに言う。

「宜しく御願いします。」

「よし、来た!なら準備を整えたなら早速行くぞ!城の前の茂みで俺は待ってるから。」

「追加だ。もう一つ良いか。カンダタと言う盗賊には気を付けような。」

「カンダタ?」

「子分を次々と作って、高価な物品や金を盗んだりしているかなりタチの悪い連中だ。バコタや昔の俺よりもな。人攫(さら)いもする事があるそうだ。そして何らかの因縁があって、俺は昔から奴らのグループとは対立している。次見付けたら、ただではすませねえ。」

「ありがとうございます。では行って来ます。」

 アベルは、城へと向かった。丘を登ると、もうすぐだ。

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DQ 序章「扉が開く時」 千馬章吾 @shogo

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