11.ササヤカな日々
カラオケにはバイクで行くと思って
ボーダーのロンTと黒いサロペットを着て
店へと向かった。
既に看板や照明は消えていて
裏口に回ると晴生が鍵をかけていた。
「お疲れ」と声を掛けると
「ん」とヘルメットを渡された。
駅前のカラオケ店に行くと思っていたら
逆方向へとバイクが向かっている。
どこへ行くんだろ?
到着したところは
晴生の家の近くにある施設で
一階はボーリング場で二階はカラオケ、
他にもダーツやビリヤード、ゲーセンがある。
「おー、こんな所にピカケボウルあったんだ」
「二年くらい前に出来たんだよ」
「ダーツやってみたーい」
「……別にいいけど」
エレベーターで三階に上がると
手前にはビリヤード台が数台あって
奥にダーツマシンが並んでいた。
運良く一台空いていて
早速ダーツボードの前に立った。
「的に当てればいいんだよね?」
「まあ、そうだな。練習する?」
「投げるだけでしょ」
「……そうだけど」
一回に三投ずつがルールらしく
晴生は私にダーツを三本手渡した。
「いくよ……っと」
カツン。
カツン。
パシン。
ダーツが床に転がる。
意外と難しくて全然的に当たらない。
「……ぷっ」と聞こえて
後ろを振り返ると
晴生が口に手を当てて笑いを堪えていた。
「初めてなんだから仕方ないでしょ?!」
「悪い(笑)。投げ方が面白すぎて……つい」
落ちたダーツを拾って晴生に渡す。
「晴生は出来んの?」
「まあ、一応」
晴生が床に書かれた線の前に立つ。
トンッ
トンッ
トンッ
三投とも真ん中辺りに刺さった。
「へっ?」
周りの女の子たちが
「やば」と軽く言い合うくらいには
上手くてかっこ良かった。
「久々だから腕鈍ってんな」
「これで鈍ってんの?!」
「まあな。この線がスローラインつって投げる位置な」
言う通りにスローラインに立って構える。
「こう?」
「足が逆。右利きは右足が前」
晴生が後ろから抱え込むように
私の腕を持って姿勢を整える。
「二の腕は肩の高さで固定、肘から先を前に向かって伸ばす」
そして手首を掴んで動きを確認した。
「ダーツボードに紙飛行機を飛ばす感じで力抜いて」
掴んだ手首を軽く揺する。
体がくっつく度に心拍数が上がる。
「やってみ?」
教わったように腕を振り下ろした。
ストンッ
「やった!当たった~~」
「俺のお陰だな」
晴生は私の頭をよしよしと撫でた。
「ダーツも教え方も上手いよね。晴生天才!」
「大袈裟(笑)」
笑顔にキュンとする。
「飲み物買って来る!」
急に恥ずかしくなって
その場から離れた。
ジュースを持って戻ると
晴生は隣の台にいた女の子たちに
投げ方を教えていた。
私だけが特別だなんて思ってしまうのは
単なる思い上がりだ。
「晴生、サイダーでいいよね」
「おう。サンキュー」
声を掛けると晴生は戻ってきた。
「何ナンパしてんのよ」
「どうすれば上手くなるか教えてって言われただけ」
「逆ナンかよ」
「サヤカは筋いいよな。ゲームやろうぜ」
話を流すと晴生はマシンのボタンを押して
ゲームをスタートさせた。
たっぷりと投げ合いを楽しんで
「そろそろ帰ろっか」と言った時
「俺んちで飲まない?」と誘われた。
何か意図があるのかないのか
晴生の表情をうかがっても
よくわからない。
「いいね」
行ってみればわかるはず。
コンビニで酒とツマミを買って
晴生のアパートへと向かった。
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