158.Sな彼女とNな彼

私たちがお家デートを楽しんでいた頃



小池くんは彼女に別れを告げていた。




「好きな人が出来た」




元カノの園子に一ヶ月前に言った台詞を



今カノのサラちゃんに言った。




別れ話に「嫌だ」と泣いてすがられても



さすがに元カノが妊娠しているなんて



言えなかった。




まだ付き合ったばかりとはいえ



サラちゃんが工場に配属されてきた時から



惹かれてしまっていた。




好きだと自覚してからは



園子とはキスすらしていないから



本当に俺の子か?と思っている。




他に父親候補がいないか



間宮は何か聞いてない?と聞かれた。




そんな細かい事情までは知らないけど



園子は浮気するタイプには思えない。




「小池くんもわかってるでしょ?」



電話の向こうに伝えると



「そうだよな……」



と暗い返事が返ってきた。



「彼女とは別れたってことは園子と結婚するの?」



「男としての責任を取るしかないだろ」



「そっか。じゃあ、あとは二人で話して」



「わかってる。じゃあな」





切られた電話のそばで



不機嫌な紀樹が待っていた。




こちらの責任も取ってもらいたい。




複雑な事情を全部話すと



「赤ちゃん出来たは心臓止まるよな」



と小池くんに同情していた。




予期せぬ妊娠を打ち明けると



男は思考も動きも止まるよね



と私は学習した。






翌週。




園子から「恭介にプロポーズされた」と


涙ながらに報告があった。



「おめでとう」



ようやく言えた。




ホッとした気持ちと同時に


園子が結婚も子供も


一気に手に入れたことに


モヤモヤした気持ちが生まれた。




私はいつになるかわからない。




園子が会社に妊娠と結婚の報告をすると


「できちゃった婚だって」と


あっという間に噂されていたけど


それすら羨ましいと思った。




小池くんだって貯金ないって言ってたのに。




幸せそうにお腹を撫でる園子は



私には眩しかった。












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