149.Sな彼女とNな彼

お互いに実家暮らしのデートに


不満を感じたわけではない。




私の家には常に祖母がいるし


部屋は小夜と一緒だから


他人を招くのは無理。




紀樹の両親に会うと


「実結ちゃんごめんなさい」ばかりで


私の方も気を遣ってしまう。




だから


紀樹のお母さんがパートに出て


お父さんが出掛けている時に


西川家に遊びに行った。




弟の隆人くんは紀樹の隣の部屋だけど


いつも静かだ。



人見知りみたいで


食事の時以外は部屋から出てこない。




紀樹の部屋は一応防音って言うけど


本当かどうかはわからない。




「声聞こえたらラッキーと思うだけやろ(笑)」



「バカ言わないでよ」



「可愛い弟の教育やん」



「もうっ」



「今日は隆人おらんねん。ほら、日本語禁止やで」



「……っ?!」




キスで口を塞がれたから


言葉が出ないわけじゃない。




最初から本気で抵抗する気なんかない。





繋がってないと不安だった。





紀樹はただでさえ忙しい会社の仕事に加えて


副業の仕事まで受けながら


アメリカに行く準備をしている。




会うといつも眠そうで


無理して会わなくていいのにと


申し訳ない気持ちになる。




けど、どんなに疲れていても


英語のプレゼン資料を作る時には


目を輝かせていた。




夢に向かって進む紀樹の瞳に


私は映ってるかな……と


少し嫉妬してしまうほど。




ただアメリカに行った時には


家族で住むならどの辺りがいいとか


子供と一緒に何をしたいとか


週末の私たちのことを語る時にも


同じくらいキラキラした瞳をしていた。




その瞳を信じたい。





紀樹の腕の中で眠る。





アラームの音で目を覚ますと


またお腹がズキリと痛む。




はっとしてシーツを確かめると


点々と血がついていた。




その時に気が付いた。




きっとホテルのも私の血だ。




「紀樹、ごめん」



「んー?」



「シーツが……」



掛け布団を捲って見せると


紀樹はぼんやりと起き上がった。



「……鼻血?」



「違うよ。シミになる前に洗っていい?」



聞くと、覚醒した。



「始まったん?」



「かもしれない。ごめんね」



「俺も気付かんかったし、大丈夫?」



「うん。全然。洗うね」



二人でシーツを引き剥がした。



「俺がやるから待ってて」



「私がやるよ」



「ほな、実結は隣の物置部屋から替えのシーツ持って来といて」



「わかった」





廊下に出ると


紀樹は反対隣の部屋のドアを開けて


壁面全部が棚になっている真ん中辺り


枕を置いてある所を指差した。




バスケットに入っているシーツを一枚取って


室内を見回す。


反対側の棚には紀樹と隆人くんの


子供の頃の本やおもちゃが衣装ケースに


入って並べられていた。




奧の本棚には


懐かしい漫画や百科事典もあって


沢山の本と、卒業アルバムがある。




見たい衝動と戦う。




勝手に見たら怒られる……よね?




ふと大学受験用の参考書を見つけた。



私が落ちた国公立大学の過去問題集もある。



紀樹は海外の大学を何校か受けたって


言ってたのに何で?


隆人くんの本にしては古いよね?




やはり見たい衝動と戦っていると



「実結?」



紀樹が戻ってきた。








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