148.Sな彼女とNな彼

数日後。




「アメリカの会社と交渉を進めてる」と


紀樹が言ってたから


私は英会話教室に通い始めた。




英語なんか習わなくても


行けば喋れるようになるやろ


と言われたけど


紀樹とは頭のデキが違うので


問題がある。





ネットカフェで仕事をしている紀樹の隣で


私は英語のテキストを読む。




「紀樹は前からアメリカで働きたかったの?」



「まあ、アメリカじゃなくてもええけど」



「外国で仕事したいの?」



「技術を金に変えるには日本より外国の方が早いからな」



「よくわかんない」



「日本では技術者で大金稼いだって話を聞かんやろ?海外なら同じ技術でも何千倍も高く支払ってくれるねん。せやし……」





長い話が続いた。



つまり外国の方が技術があれば


日本より何千倍も稼げるし


開発費用も市場規模も莫大で


可能性を無限に広げられる


という事だった。





「紀樹ってアメリカの大学行ってたんでしょ?」



「うん」



「その後もあちこちの国に行って仕事もしてるよね」



「うん」



「何で日本の会社に就職したの?」




その質問に紀樹が私の方を見た。




「忘れ物を探しに来ただけ」



「忘れ物?」



わざわざ探さなくても


誰かに頼めば良かったと思うけど。



「それにオカンが病気で手術するって言うから帰国してん」



「お母さんのために?」



「仕事より家族のが大事やん。隆人がもうちょい大きかったら任せたけどな」



「もうお母さん大丈夫なの?」



「ピンピンしてたやろ(笑)」




最後に会ったのはゴールデンウィーク前。



元気そうにしていた。




「今も家族大変なのにアメリカに行くの?」



「今回は金さえあれば何とかなるし」



「そっか」



「それに技術のスピードは早いからな。俺が特許取りたいやつも誰かに先越されるかもしれん」



「うん」



「夢を叶えるにはこの数年が勝負やねん」




必ず成功してみせるからって言う紀樹の瞳が



キラキラして綺麗だった。



ううん。



綺麗というより美しく輝いていて



絶対に壊したくないと思った。






「さってと、今日の業務は終了」




テキストを読んでる私に抱きついてくる。




「紀樹、もうちょっと待って」




「I wanna make out with you.」




「えっ、何?」




「まだまだやな(笑)。俺と話す時に英語にすればええんちゃう?」




「Really?」と笑顔を返した私に



「Of course.」とキスをして



過剰なスキンシップをする。





「ちょ、ここでは駄目だからね?!」



「えー、あかん?」



「ホテル代くらい私が出すよ」



「それは性欲を我慢するより嫌や……」



「何で?」



「男としてのプライドが傷付くやん」





こうして私たちは高校生みたいに


お金を掛けずにデートする方法を


模索し始めた。











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