146.Sな彼女とNな彼

「紀樹、携帯鳴ってるよ」




「こんな朝早く誰やねん……」




もう十時だけど。




紀樹はガウンを羽織って


椅子に掛けてある上着のポケットから


スマホを抜き取った。




「Hello?」と耳に当てる。




国際電話??




早口で何を言っているかは


全くわからない。




Thank You と bye だけ聞き取れた。




電話が終わると笑顔で振り返った。




「実結、思うより早く片付くかも」




「何……?」




「俺のプログラム使いたいって会社から電話があってん。詳しい資料送らなあかんから帰りたいんやけど、いい?」




「えっ、あ、うん」




「もし俺がL.A.で仕事することになったら仕事辞めてついてきてくれる?」




「エルエーってどこ??」




「ロサンゼルス」




「行く」




考えるより先に答えてた。




「ほんまに?」




「うん」




アメリカのカリフォルニア州。




「一生日本に帰らんって言っても?」




「ついて行く」




紀樹を守って生きていく。




私は紀樹に一方的に守られたいわけじゃない。




私だって紀樹を守りたいし



仔猫みたいに大切に愛したい。



傷付いてるなら助けたいし



精一杯のことをしてあげたい。





一つ歳を取った朝、心からそう思ってた。





その瞬間は嘘じゃない。





紀樹が私の頬を撫でた。




「シャワー浴びてくる」




「うん」




「実結も一緒に行く?」




「私はさっきシャワーしたからいい」




水の流れる音が響く部屋で



乱れた布団を畳む。





あれ?




シーツに赤い点を見つけた。




血?




うそ。




トイレに駆け込んだけれど



下着は汚れてない。




シーツの点を湿らせたタオルで



とんとんと拭き取る。




やっぱり血のような気がする。




体のどこかに傷がないか


自分の体を鏡で確認したけれど


怪我はしてないようだった。




紀樹かな?




シャワーを終えた紀樹が


腰にバスタオルを巻いて出てきた。




「ちょっとタオル外して体見せて」



「何いきなり?(笑)」



「いいから、早く」



わざとらしく前を押さえた紀樹から


バスタオルを奪い取る。



引き締まった体にうっすら割れた腹筋。


今朝も元気な……。



「そんなに見られるとつい(笑)」



「バカ紀樹」



「責任は取ってもらうで?」



「もうっ」





くだらないコトは簡単に出来るのに



自分をさらけ出すことが出来なくて



ひとりよがりの恋愛をしてしまう。




年を重ねても私がちっとも成長しないから



運命に見放されてしまったのかな。









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