145.Sな彼女とNな彼

朝。




ホテルのベッドの上。




泣き腫らした目で目覚めた。




隣の紀樹はまだ夢の中。




先にシャワーを浴びて目を冷やそう。




熱いシャワーの後


冷蔵庫のペットボトルの水を


両目の上に乗せた。




冷たい。




これは現実だ。





「ふふっ。ふふふ……」




笑いが込み上げてくる。




別に私は壊れたわけじゃない。




今結婚できないとは言われたけど


数年待てばいい話。




泣くほどショックだったけど


紀樹は早ければ一年後には独立して


今の何倍も稼ぐから心配すんなって


言っていた。




私は紀樹を信じてる。




三年だって十年……は嫌だけど


五年くらいなら待つよ。



ううん。



きっと十年でも待ってしまう。





紀樹を守ることが私の幸せだから。





笑いが止まらない理由は


昨晩にある。




あの後も二人で飲み続けた。




普段お酒を飲まないから


泥酔した紀樹を見たのは初めてで


ふらつく足取りを支えながら


ホテルに連れてきてチェックインした。




部屋に入った直後。



「実結、捨てないで」



囁きが聞こえた。




「えぇっ?!」




本気で二度見した。




紀樹が絶対に言うわけない。




でも、すがるように私を見ている。



「捨てないから大丈夫だよ」



頭をナデナデしてあげると



「じゃあ、ちゅーして」



可愛く言う。



その仕草に悪戯心が起きて



「そそるキス待ち顔ができたらね?」



といつも紀樹が私に言う台詞を返したら



少し唇を突き出して目を瞑った。




笑いと可愛いが止まらない。




その後も


「もっと」「早く」「欲しい」「好き」を


繰り返す紀樹が仔猫のように甘えてきて


悪戯心の暴走を止められなかった。





そんな中でふと呟いた。



「家族のゴタゴタでしんどかったけど、こうしてると軽くなる。癒やされる」



こういう弱音も滅多に吐かない紀樹が


私にしがみついて果てた。




紀樹は性欲が底なしだと思っていたけど


心に溜め込んでいるものを吐き出すために


必要なコトなんだと思う。





眠り姫みたいな寝顔を見つめる。





やっぱり笑いが止まらない。





「紀樹、起きて(笑)」




気だるそうに目を開ける紀樹が


無駄に色気を放っている。




「ん、もうちょい寝かして……」




「膝枕にしますか、ノリちゃん」




「ノリちゃんって何やねん」




言いながらでも這うようにして


膝の上に乗り掛かってきた。




「昨日にゃあにゃあ鳴いてたから(笑)」




ほっぺたを指でつつくと


紀樹がはっとした顔で私を見上げた。




「俺が?」




「覚えてないの?(笑)」




しばらくの沈黙。




「覚え……てへん」




顔を隠した紀樹の頭を撫でる。




いやいやと首を横に振る。





覚えてるよね(笑)。





爆笑する私の太ももに



仔猫紀樹が噛み付いた。









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