77.Sな彼女とNな彼

悩みに悩んで雑貨を購入した後



母が食器棚を買い換えたいと



言っていたことを思い出した。





家具フロアへと移動する。



大型家具はセール対象外で



お客さんはあまりいない。





いつか結婚したら



インテリアはホランで統一したいねって



言ってた時もあったな。





私の部屋にある壁掛け時計は



その時に買ってもらったものだと



今更ながら思い出した。





どうして上手くいかなくなったのかな。





どうすれば良かったのかな。





食器棚のドアを開け閉めしては



ぼんやりと通路を進む。






「新しい部屋はこのテーブルにしようよ」



「いいね」



「こっちもオシャレじゃない?」




食器棚の向こうから



幸せそうなカップルの会話が聞こえてきて



いたたまれない。





野本くんはスタイリッシュな趣味で



実結の乙女趣味には合わせないからね、と



インテリア売り場ではよく揉めたっけ。





さっき買ったばかりの



クロネコのピンククッションも



同じシリーズのマウスパッドも



悪趣味だと笑われるんだろうな。





楽しかった気持ちが一気に萎んだ。





帰ろう。





うつむきながら歩いていると



通路の曲がり角で



Tシャツがパツパツの丸いお腹が



目に飛び込んできた。





避けようとして顔を上げる。





その人と目が合った瞬間



凍りついた。





の、野本くん……!





声も出せずにいると



曲がり角からもう一人



大きな丸い眼鏡の女の人が現れた。





一歩後ずさりした野本くんの手には



その女の人の手が握られていて



慌ててふりほどく様子は



スローモーションに見えた。






「野本くん、その人、誰?」






考えるより先に口走っていた。











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