43.Sな彼女とNな彼

会社の決定事項が覆るわけもなく


社内にシステム管理者を雇ってよね!と


心の中で悪態をつく。




野本くんとの約束も


美味しい物を食べた幸せも


吹き飛んでしまった。




「はい、四国おーわりっ」




彼がハガキを置いてニヤリとした。




私の進捗を確認すると


「マミヤちゃん、お腹いっぱいで眠いんちゃう?」


と、顔を覗いてきた。




茶色い瞳にドキリとしてしまう。




「ち、違います」




「残りは俺が全部やってもええけど?」




「西川さんは中国ブロックが終わったら休憩してください」




「なんでやねん(笑)。近畿で捕まえるって言うたやろ。俺が近畿に辿り着いたら勝ちやん」




勝てる気がしない。




「ずるい……」




「正々堂々やってるわ(笑)」




「西川さんはプロでしょ? 私は素人なんだからハンデください」




「十分なハンデはあったやろ(笑)。まあ、そこまで言うなら俺は先に休憩行ってくる」





彼は二十分ほど席を外していたけれど


戻ってきてからあっという間に


中国ブロックの作業を終えた。




まだ近畿ブロックを必死に処理する私から


残りのハガキを奪い取って笑う。




「俺の勝ち(笑)。マミヤちゃんは休憩がてらアレ着けて来て」




午前中にプレゼントされたバレッタ。




「今ですか?!」




「うん。後は俺がやるから、ハンデ貰ったクセに負けた罰としてついでにコーヒーも入れて来て」




何も言い返せず「はい」と返事した。





トイレでサイドにまとめた髪をほどいて


ハーフアップをバレッタで留めた。




手鏡で後頭部を見る。




可愛い……。




キラキラ光るバレッタが煌めく。




給湯室でコーヒーとミルクティーを入れて


席に戻ると作業は殆ど終わっていた。




「西川さん、コーヒー置きますよ」




「ん、ありがとう」




こっちを見ずにそう言うと


最後のハガキの束を次々と入力した。




はや……。




私が四苦八苦しながら熱いミルクティーを


飲み終える頃


「やったー。終わったー」と


彼はハガキを置いて両腕を伸ばした。




「ありがとうございました。コーヒー召し上がってくださいね」




「ああ、いただきます」




「チョコ食べますか?」




引き出しからM×Mチョコを出す。




「うん」と穏やかに微笑む彼に


無駄にドキドキする理由はわからない。





全ての入力が終わったハガキの段ボールを


倉庫へと運び込む前に大切なことがある。




「ハガキ、引くんやろ?」




「はい。各ブロックからまず十枚ずつ選抜したのをクジ引き用の箱に入れて、五枚選びます」




課長に立ち会ってもらって


クジ引き用の箱の中を入念に混ぜた。




五枚を選ぶ。




上手く地域も年代も性別もバラバラの人を


引き当てた。




一枚のコメントに胸がじんとした。




中学生の男の子。




『片思いしている子があおすけ大好きです。もしプレゼントに当選したら、それを持って告白に行きます!』




課長が「青春だね~」と


すごく嬉しそうにハガキを見つめた。




「好きな子にプレゼントするって勇気がいるもんなあ」




彼も優しい目をしていた。




そして


課長に聞こえないように小さな声で




「髪、似合うやん。大事にしてな」




と、照れくさそうに言った。











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