私の街

トマトも柄

第1話

和歌山県新宮市わかやまけんしんぐうしの駅にある男はこう聞いた。

「いい景色が撮れる場所はありますか?」


男の問いに、駅員は、

「いい景色なら色々ありますよ。 どういうのが撮りたいのですか?」

「街を見れるような感じの場所がいいんです」


その答えに駅員は少し悩み、ハッと思い付いた顔をして、

「少々お待ちください」

と言い、駅員が持ち場を少し離れた。

駅員が戻ってくると同時に、一人の男を連れて来た。


「初めまして。 木下きのしたです。 お話は彼から聞きました。 いい景色を撮りたいとの事ですね。 良かったら私が今から案内しましょうか?」

「本当ですか! ぜひお願いします!」

「それで、失礼なのですが、お名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「はい! 私の名前は川田かわたと言います。 よろしくお願いします」


川田は木下に笑顔を見せて、頭を下げた。

木下は、

「では行きましょうか。 少し遠いのですが、宜しいでしょうか?」

「はい。 大丈夫です」

川田は木下の横につき、カメラを構えながら歩いて行った。

そして、二人はある場所へ向かった。

その場所へ向かうこと、約十分位の距離を歩いて、到着した。

「ここは?」

「ここは神倉神社かみくらじんじゃです。 あなたの言ってた景色がこの先にありますよ」

「この先って、階段を登っていくんですか?」

「そうです」

神社とは言っていたが、賽銭箱の奥は階段になっており、かなりの距離があるように見える。

しかも、石が適当に積まれたかのようなアンバランスで、足を滑らすと、そのまま落下してしまうのではという怖さもあった。

「行きますよ〜」

木下は危険はないみたいな言い方で、軽々と石段を登っていく。

川田は恐る恐る、石段を登って行った。

途中の中間地点で、休憩をし、何とか登りきることが出来た。

川田は疲れているのに対し、木下はピンピンとしている。

そして、着いた頂上は自然に囲まれている場所であった。

「こちらが頂上です。 では奥に行きましょうか」

そう言って、木下は奥に進んでいく。

川田も遅れないように後をついて行った。

そして、一番奥に行って、

「どうでしょうか?」

木下の問いに答えられない程、川田は景色に見入ってしまう。

前には、先ほど歩いた道、駅、この街の様々な景色が目に入る。

まるで、この街を一望している気分になるくらいだ。

左を向くと、川が見え、橋がかかっている。

「橋もありますね」

「はい。 あの橋は和歌山と三重の間を通している橋なのですよ」

川田は景色に見とれていた。

そして、一番驚いたのが、海が見えているのである。

空の青色と同じ色の海が見えているのだ。

「こ……これはぜひ撮らないと」

「その前に御神体にお願いしたらどうでですか?」

木下は指を指し、大きな岩を指した。

そこにも賽銭箱があり、川田はことがある様にと、十一円を入れ、こう願った。

(神様、すみませんがここの景色を写真に収めます。 コンクールできっといい賞を取れるように頑張ります)

そう、お祈りして、写真を撮った。

「綺麗でしょう」

木下が呟くように、川田に聞く。

「はい。 とても綺麗です」

「でしょう。 ここは私のお気に入りの街ですから。 ここが私の街だと言い張れる景色ですからね」

木下の自信ありげな言い方に川田は少し笑った。

木下の言っていることが自信に溢れるのも分かる気がする。

この景色はとても綺麗だ。

ここの景色は他のところではなかなか見れない。

川田はここの景色をカメラで何回も撮った。

そして、撮り終えたのか、一息つき、木下の向かって、

「このようないい景色を教えて頂きありがとうございました」

「こちらも気に入ってくれてとても嬉しいですよ。 こちらこそありがとうございました」

二人は感謝の気持ちを述べるように、頭を下げながら言った。

そして、二人は神倉神社を降りて行ったのだ。




数ヶ月後、川田は写真コンクールで受賞をしたのだ。

インタビューの記事ではこう書かれていた。

「街の人に案内してもらって、とてもいい場所でした。 とても綺麗な景色で、街を一望出来るような場所でした。 また、行きたいという思いもありましたし、この景色をずっと見ていたいという気持ちから撮った写真です」

その受賞した写真は神倉神社で撮った写真だった。

下は色々な建物があり、上には青い空が広がっている。

そして、奥には海が見えていた。

まるで、街を一望しているかのような写真だった。

その写真のタイトルにはこう書かれていた。

『私の街』


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