水曜日「クリームソーダ症候群」6



 玄関では、丸い物体ことコタローがマットに鎮座をしていた。

 一般用の猫マットなので後ろ足がはみ出しているが、それには関心ないようでこちらに一瞬だけ視線を合わせてまた正面を向いて何かと対峙している。

 彼にしか見えない存在がいるようだった。

 猫は人間には見えないものが見えるというけれど、学校に連れていけば役に立つかもしれない。

 

 我ながらさっきのポチへの態度は大人げなかったな、と思う。

 ときどきやってくる、制御できない感情の波のせいだと思いたい。

 またそう思って若干の自己嫌悪に陥ってしまうのもいつもの癖だ。

 いっそ清々しく忘れられればいいものをぐじぐじと考え込んでしまう。

 

 たとえポチの言葉が誤魔化しで紫桐さんとの間で深い関係があろうとなかろうと、私はどうこうしようとは思わないし私には関係ない。

 

 明日軽く謝っておけばそれで十分だ。

 ポチだって怒ってはいないはず。

 だから、大丈夫。

 

 郵便受けから一通の封筒を取り出し、軽い足取りで居間まで歩く。

 

 その場で破いて中身を見てしまいたい気持ちをぐっとこらえ丁寧にテーブルの上に置く。

 

 中に入っているものがそれによって影響を受けるはずはないのだけど、それくらいの儀式はしておくべきのような気がした。

 差出人はもちろん私のお兄ちゃんだ。

 

 よし、と気持ちを入れて、封筒ごと二階の私の部屋に行く。

 

 パソコンを立ち上げQQLの曲を流す。

 着替えをしてカッターを取り出し、慎重に刃を入れる。

 開いた口にそっと指を差し入れ中の紙を取り出す。

 硬めの紙が二枚入っていた。

 文面は同じで右端に切り取り線がある。

 指でなぞり、簡素な文章をゆっくりと読んでいく。

 

 音楽が近くに聞こえた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る