火曜日「A sleeping spitz」3



「あんなので良かったの? もっと話を聞いた方が良くなかった?」

「もっと? 例えば?」


 先輩にお礼を言い私とポチは音楽室を立ち去った。

 その前にポチが窓から外を見下ろしていたので私も横に並ぶ。

 音楽室は校舎の西端でこの位置にも窓がある。

 窓の先には弓道場、体育館と続き、それらと校舎を繋ぐために一階に渡り廊下がある。

 渡り廊下は雨に当たらないように天井が設けてある。

 だから廊下自体は見えない。

 

「うーん、誰に話したか、とか」

「どうだろう、書いた人間を特定しても意味はなさそうだけど。噂を書いただけなんだし」

「でも、先輩の話を大きくして投稿した人がわかれば、それでかなり前進するんじゃない?」

「ああ、まあ、それはそうかもね」


 生返事でポチが答える。

 

「やる気がないみたい」

「いつだって、やる気はないよ」


 今にも眠り落ちてしまいそうな顔で言う。

 

「それはそうとして、どうしようかな」

「続けるんでしょ?」

「そりゃ、まあ。仕方がないから」

「仕方がないからって、消極的になってもどうしようもないじゃない」

「僕はいいんだよ、消極的でも」

「まったくまったく!」

「変な意気込み方だなあ。そうだ、放課後、新聞局に行こうと思うんだけど」

「新聞局?」

「昔からそういう噂があるなら、新聞局が何か昔記事にしているかもしれない。今回の投稿以外に詳しい情報があるかもしれない。それに、もしかしたらだけどもう今回のだって情報をつかんでいて、僕たちよりもく調査しているかもしれない」


 新聞局の新聞は入学時に一度読んだことがあるくらいだ。

 無難な学校紹介と校長の言葉が載っている程度で、事件や謎を率先的に調査するようなところには思えなかった。

 

「それはなさそうな気がするけど」

「僕も半分同意するけど、一応何事も手順を踏んでおいた方がいいかと思って」

「手順って何よ」

「セオリーだよ、目撃者の証言、ときたら、次は過去の情報の収集だ。過去に複数の同じようなことがあれば、そこからパターンを導き出せるかもしれないから」

「ま、それはそうかもね。でも、新聞局に知り合いでもいるの?」


 昨日柏木さんから渡された紙を持っていけば、それなりに話は聞いてくれるだろう。

 生徒会と新聞局が反目し合っている、なんてありきたりなオチがなければだけど、そんな面白展開は、これまでの流れから望めるわけもない。

 

 それに対してのポチの回答は、実にあっさりとしたものだった。

 

「行けば何とかなるよ、たぶん」

「せめて心強い言葉があって欲しかった」

「僕に期待しないで欲しいな」

「残念だけど、そうする」

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