月曜日「ウィークエンドロンド」5



「藤元さん」

「杏でいいよ」


 柏木さんとアドレス交換したあと、書類をかばんにしまって執行部を出た。

 

「じゃあ、杏さん」

「なに?」

「手伝ってみるよ。思っていたより面白そうだし、一週間は考えてもいいってことだし」

「ねえ、どうして、さっき柏木さんの下の名前がわかったの? 一年生だっていうのは、ポチのいうとおり注意していればわかることだ、っていうのはわかったけど」


 階段に向かって歩こうとしたポチが右回りで振り返る。

 

「うーん、もし、だけど、一ヶ月で一年生全員の顔と名前を暗記した、といったら?」


 それは柏木さんがついた嘘だ。

 そんなことができる人間がいるわけがない。

 

「冗談でしょ?」

「そう、そんなのは普通じゃない」

「じゃあ?」

「そこは、やっぱり企業秘密ってことで」


 言い切る前に、ポチは背を向けて、階段を降りかけていた。

 

「じゃ、明日」


 とりあえずはよしとしよう。

 多少、いやかなり変態的な性質を持っていることは再認識したが、思っていたよりもよく気がつくタイプだということはわかった。

 いないよりはいたほうがまし、くらいの気持ちでいよう。

 

 ポチの背中を見送って、私はイヤフォンを耳にねじ込む。

 流れる曲はQQLの「ウィークエンドロンド」だ。

 週末のデートを楽しみにしている女の子が、月曜日の憂鬱をあと五日我慢すれば楽しいことが待っている、と言い聞かせることで乗り切ろうとする心境がアップビートで歌われている。

 今の心境にぴったりではないか。

 

 さあ、明日から出された課題をこなしていこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る