大和路水路の金魚たち

奈名瀬

見上げて

 桜が綺麗な町というのは多いと思う。


 あたしの住むこの町も、そこから漏れないだろう。

 奈良、大和郡山。

 約1000本の桜があるあたしの町。

 ここの桜並木が咲き頃になった時期はちょっとしたものだ。


 すんと薫るヤエザクラの香りに鼻をくすぐられ、ひらりと舞い落ちるソメイヨシノの花びらに囲まれながら、シダレザクラが飾る城跡の見える道をゆっくりと踏み歩んでいく。

 それは、大げさに幻想的な風景ではないけれど、ほんの一時現実から解離した光景。

 短い華のトンネルを通るような、少しお手軽な幻想への散歩道だ。


 そんな桜並木の道を歩くのは、ちょっとした贅沢だろう。


 ちなみに、あたしが一番好きな桜の木はシダレザクラだったりする。

 幾千とある枝に、恋をした頬のような色の花を飾り、しゃなりと頭を垂れるシルエットは遠目に見ても美しく、近くで見ると桜の木がこちらに指を伸ばそうとしているようにも見える。

 あたしは、シダレザクラのそういう姿を気に入っていた。


そして、桜で春を着飾り、町人に唱って聴かせるようなこの町の風貌もあたしは気に入っている。


 けど、この町の魅力は何も見上げて楽しむ桜だけじゃない。

 視線を落とし、町を流れる水路を覗けば、また違った魅力に出会えるのだ。

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