お神楽鑑賞

破死竜

妖狐退治の舞

 真夏の太陽が照りつける頃、街中の会館で、その催し物を見ました。


 「お神楽?」

 そういう行事が存在することは知っていましたけれど、広島で見かけたことは無く、最初聞いたときにはさして興味を覚えなかったことも事実です。

 きっかけは、無料券――仕様も無い理由で申し訳ない――を頂いたこと。そして、その券を見てみると、県内の某市からやってきた演者たちが舞う、とのことでした。


 入口には、”撮影は許可された席以外では行わないでください”の注意書き。実際、舞が始まった後、一度だけフラッシュを焚いての撮影を行ってしまった方がおられ、周りから非難の視線を浴びていました。ご注意ください。

 さて、席に着き、半券と引き換えに受けとったパンフレットを見ると、今宵の出し物は、狐退治とのこと。大陸から渡って来た、この化け物は、美女に化けて権力者をたぶらかしたものの、その正体がバレ、地方へ逃げてきたようです。


 幕が上がり、妖狐退治の使命を帯びた二人の男が登場します。輝く鎧に身を包んだ鎌倉武士たち。(※後から知ったことですが)昭和の頃演じられたそれよりは早めの口調で、古文による名乗りが行われます。

 「・・・・・・遂に、妖狐の住処に辿り着き候」

 「その傍らに吾も並び立ち候」

 張りのある、朗々としたその声は、恐らく日本語の分からない観客の方にも、その有する誇りは伝わったことでしょう。

 武士たちが一旦幕の後ろへ下がると、今度は敵役の登場です。しかし、その姿は盃を持った侍女のそれ。先ほどの武士たちに毒を盛ろうと言う算段が語られます。

 その後、毒殺の企みは暴かれ、妖しい女は逃げていきます。そうして、追い詰めた武士たちの前で、妖狐は正体を明らかにするのです。

 (金の毛の化け物への、早変わりけぇ?!)

 女が幕の裏に入ったと思ったら、瞬時に現れた妖怪変化。これぞ、見所でした。

 武士たちと妖狐は、互いの位置を目まぐるしく変えながら、舞台の上でくるりくるりと凄まじい速度で何度も横に回転して闘います。酔いやすいワシとしては、見ているだけでも目が回りそうな光景でした。

 やがて、ひょうと放たれた矢が狐へと突き刺さり、崩れ落ちた妖怪は武士たちに首を刈られます。恐ろしい怪物は、こうして最期を遂げたのでした。


 小さな劇団(と呼んで良いのかどうかは存じませんが)らしく、フレンドリーな挨拶があり、観客には演者たちとの写真撮影が許されました。小道具を貸していただいて、身に付けることもできました。ワシも並んで一枚、パチリと撮らせていたdかいました。


 昂奮冷めやらぬ夜道。きらびやかな舞台の光景を思い出しておりました。小さな社の神に捧げるべく行われた、小さな舞。そういえば、座長の方も、舞台の端でご家族と並んで笛太鼓の演奏をされていました。

 彼らは、きっと、これからもあのお神楽を続けていくのでしょう。ワシも(※お神楽でなくても)何かしらこの県の為に成し遂げたい。そんな想いを抱かせてくれた、そんな夏の夜のことでした。


 おわり

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お神楽鑑賞 破死竜 @hashiryu

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