私「うつ病」とやらになりまして

@mikan-pafe

第1話「私」心療内科へ行く

「死んでしまいたいです......」


これが心療内科の門を叩き、いかにも優しそうな初老の女医に私が最初に告げた言葉だ。この言葉に嘘偽りはない。胸の奥から溢れ出た言葉だ。


「そうなんですね。本当にお辛かったのでしょうね。それこそ、死んでしまいたいくらいにね。大変でしたね。もうがんばらなくていいんですよ。今、宮内さんに必要なのは休養です。それにお薬も使う必要がありますね」


初老の女性医師はおだやかな声で、慰めるかのように、ゆっくりと言葉を選んでいた。


この日から会社に行かなくなった。正確には、病院のおかげで地獄のような勤務から解放された。勘違いしないで欲しいのは職場はまあまあ環境の良いところなのだという点だ。今流行りのブラック企業ではないし、パワハラやセクハラも受けていない。


ただ勝手に私が独りでダメになっていったのだ。なんでこうなったのかは分からない。仕事は好きだし、自分で言うのも気恥ずかしいが、かなりの猛烈社員で、成果も人並み以上に挙げていたと思う。でもあるときぶっ倒れた。どうがんばっても起き上がれないほどに地面に顔面を強打した。その勇気があれば死にたいと思うほどに、それは痛かった。


休養。比較的、緑に恵まれた土地。就職以来7年間親しんできたワンルームマンション。真昼間のベッドで使い古したジャージを着たまま、私はただ茫然とたたずんでいた。テレビはイライラするので消していた。静寂の自室の中に、近くの保育園の子供の叫び声だけが、うっすらと聞こえてくる。本日は晴天なり。しかし、私の心はまるで天候を失った灰色の空のように、深い深い虚しさに占拠されていた。


主治医は休養が一番の治療になると言っていたが、この静寂の中、ベットに腰かけて何もしないことが本当に治療になるのだろうか。はなはだ疑問だ。いやむしろ、こうして無為に過ごすことを医学の世界では休養と呼ぶのだろうか。だとしたら、それは世間一般に言うところの休養ではない。これは単なる精神活動の静止だ。そんな感想を抱きつつも、私はただただ何もせず、ただただ、ベットで茫然としているだけだった。まるで瞑想に飽きてサボっている修行僧のようだ。

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