第2話

「ダイキライ」なんてキミが言うから、

「ダイスキ」って抱きしめる。

「ヤメテヨ」なんてキミが言うから、

「ヤメナイ」って力を込める。

だってそんなに泣きそうな顔、本気な訳ないから。

離れなければならない理由なんてない。

離れざるを得ない日を二人で迎えればいいだけだ。

ちょっと、考えたくはないけれど。


「ダイキライ」なんて言わなくていい、

「ダイスキ」なのはちゃんと知ってる。

「ヤメテヨ」なんて言わなくていい、

「ヤメナイ」ことだけが真実だから。

痛みや苦しみ、悲しみ、すべては分かってあげられなくても、

そっと手を取り暖めることならできるから。

涙でぐちゃぐちゃになりながらなんてカッコつかないけど

最期までそばにいさせて。


いくら強く抱きしめても、キミはだんだん消えていく。

明るい微笑みもいつか苦痛にゆがめられる。

背中をさすってみたり、髪を撫でてみたり、

ああ、僕は無力だ。

でもその無力を自分なりに受け止めて、ときに苦しみに当たり散らされても、

僕だけは揺らがずにキミを見る。

それだけが、キミからの別れを拒否した僕の証明。

僕が「キミの僕」である証。

だから僕は笑うんだ。キミといられる今日のため。


一人の夜にはときどき襲われる。

キミを失う恐怖とそれが迫ってきている焦燥感。

キミのいないベッドの上、ふとんの中でのたうち回る。

なぜ僕は一緒にいられない。

誰も知らない暗闇の先の世界へ、キミだけを行かせたくない。

それでもそれは受け入れざるを得ない現実で、

僕はキミとはいられない。

キミという肉体は、確実に滅びゆく。

そしてそれでも僕だけは確実にここに在る。

その矛盾に涙を流す。声をあげて泣きじゃくる。

太陽が出て、明日キミと会う頃には、

涙の跡が消えているように祈りながら。


そんなふうに、不器用にのたうち回りながら日々は過ぎた。

幸福に笑っていたキミの姿を、ひどく昔のように思い出すようになった頃から、僕とキミの間の意思疎通は現実的には難しくなっていた。

そろそろ現実と幻の区別も難しくなってきたキミは、

細くて青白くて、ガラス細工のようにとてもキレイだ。

そんなキミの頬に手を当てる。

ねえ、キミの中にまだ僕はいるかい?

今見ている夢の中に、僕は出ているのかい?

そんな問いかけが聞こえたかのように、眠りの中のキミは微笑んだ。

その顔を見ていた僕は、何故かそこで確信した。

お別れの時がそこまで来ていることを。

離れざるを得ない日が、目の前にあることを。


「イカナイデ」って言いたいけど、「イッテラッシャイ」って言い換える。

「バイバイ」なんて言いたくないから、「マタネ」って言いなおす。

どれだけ本音をぶつけたところで、キミは逝ってしまうから。

それなら希望があるほうがいい。

最後の最後、僕の抵抗。

宇宙規模で見たら、きっとちっぽけな別れ。

そんな風に思ってみても決して癒されはしないから、

悲しみも寂しさもぜんぶ抱きしめる。

キミがいたこと、キミといたこと、キミと最後まで抱き合ったこと。

そして、キミのいないこの街で、

僕はそれでも生きていく。






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