第2話 進路…

 5月も半ばを過ぎ 中間テストが終わった すぐに7月には期末テストが始まるわけだけだが 偏差値の確認を

 踏まえた 大事なテストなので月末より半ばの期間でテストが行われた


 三年を受け持つ身としては、手を抜けない 基本 生徒に対して親身になって何かをすることなどない

 当たり障りなくやり過ごすのが無難で安全で 体力を使わなくていいと 考えている私だが 三年を受け持つとなると

 ヘタなアドバイスをできない


 進学組には 今の大学の合格基準の把握 これは同県内ならまだしも地方となるとさっぱりだ なので 資料集めも大変である

 就職組には 就職率の確認と面接での対応 と時代ごとで変わる 筆記試験よりも 面接での対応が重要視される時代なので

 面接マニュアルの作成であったり 面接のトレーニングなどのカリキュラムや予定などの作成

 世の中は常に変動している 完全な無関心は貫けない

 なので 学校側で独自に手に入れることができる 資料をしっかり把握しておかないといけない



「・・・・ふぅ」

 生徒たちの中間のテストの採点もひと段落がつき 一息ついたとこだった

 ちょうど 私が受け持つ生徒のテストの採点で まぁ 平均より 上はとれてそうだなと安心した

 クラスを受け持つとなると 担当教科だけの先生と違って より厳しくみられるので これもまた気が抜けない

 当たらず触らず 平穏に生きて 定年を迎えたいのが本音なんだけどな~


 と そう思いながらも 答案用紙をめくり 例の彼女の名前が目についた


「・・・・木下弥栄… 65点・・・・」

 いまいちだなと そんな感想が漏れそうだった


 ふと GW明けの出来事を思い出した

 あのキスはなんだったんだろうな~ いや わかってる 彼女の誠意を目を瞑るのは 大人としてどうなんだ

 キスの意味なんて決まってる



 ―私は"本気"です


 それを伝えたかったんだろう 私はあの時 嘔吐した しかも まだ口にその余韻が残る中のキスだ

 恥ずかしい話だが 私は恋愛なんてもの 侮蔑的な思いがある

 そんなものは存在していないのだ

 そんなものは 幼い時から身に染みている 嫌っていうほど・・・・



『ファーストキスがゲロの味って最低ですね』


 そんな彼女の言葉が 頭にリフレインする


 思わず 吹き出しそうだ


「ああ まったく 最低だ」


 さて 時間も時間だ 帰るか 机の上にある答案用紙を束ね カバンに入れて 身支度を済ませ職員室をでた


 太陽もだいぶ傾いていた 世界が朱くそまる 黄昏てるわけではないが 夕陽を見つめてしまう

 ふ・・・・ 帰ろう



「先生」


 久しぶりに 聞く声だ テスト週間だったせいか 2週間は聞いてない 


 いや


 正確には・・・・

 あの日以来だな


「どうした こんな時間まで 木下」

 髪が短くなっても 顔立ちが綺麗なせいか 夕陽で顔が赤みをさし さらにかわいらしさが増しているかのように見える

 そんな彼女に見惚れているわけにもいかず声をかけてから 彼女に近づいた




「図書室で 勉強してました 今回ちょっとテスト悪かった気がしたんで」

 少し困った顔で それでも笑顔が見れる分 激しく悪かったわけではないだろう


「まぁ テストは終わったんだ 気持ちを切り替えて 日々取り組めばいい」

 その励ましが いつもの 当たり障りのない切り返しなのか

 それとも 彼女の声を久々に聴けた喜びかわからない どちらともつかない気持ちが胸に走る


「そうなんですよね~ 切り替えは大事ですよね」

「・・・・そうだな」

 なんか含みがある言い方だな


「私の事も切り替えてたりしてるんですか?」

 ちょっと意地悪に 彼女は 場所を考えず そう発言してきた



 絶句なんて事が 今まであったのか そして

 彼女の手を握り 急いで そこらの空き教室に入った

 時間が時間だけにどこでも教室は 誰もいない状態

 心の中で おいおいおいおいおいおいおいおい と連呼してた


「木下 もう少し発言する場所と 言葉を選べ」

 彼女に聞こえるように 小声で 話したためか 顔がとても近かった


「ごめんなさい ちょっと意地悪しちゃいました」

 かわいく 舌をちょろっと出して そんな仕草に かわいいいなんて思ってしまった


「心臓に悪い 私は平穏にやり過ごしたいんだ」

 そしてさらに 彼女は

「そうですね また戻されたら あそこじゃ 掃除するのも大変ですね」


「・・・・・・」

「あははは・・・ ごめんなさい あれからなんの音沙汰もないと 不安になって 悪戯でもしないと 気が晴れなくて」

 彼女は笑ってるけど 目が笑ってない

 それは さすがの私でもわかってしまう 黙っていると 彼女は首にまた手を回してきた


「ん・・・・んっ・・・はぁ・・・ちゅ・・・ん・・・・」

 回避することを忘れ 流れを受け入れてしまった

 キスの行為に抗う事を忘れ お互いに舌を絡めてしまった


「んちゅ・・・・んん・・・んふ・・・ちゅちゅ・・・はぁ・・はぁ・・・んん・・・・」

 この前とは違う 木下の甘い香を しっかり確認できるくらい いい匂いがする

 その匂いにめまいがしてしまいそうで 唇の弾力に押し戻されそうで 強く押し返し 舌を交互に絡め

 私の口に入ってくる 彼女の唇の端からは 唾液がこぼれ顎を伝い垂れていく


「ちゅっちゅっ・・・ん・・・・んん・・・はぁ・・・・はぁぁぁはぁ・・・・はぁ・・・・」

 ようやく お互い口から離れ 私と彼女は 息があがったのを必死に抑えようとした



 呼吸も落ち着き ようやく 彼女から声をかけてきた

「えへへ・・・またしちゃいましたね」

 彼女は夕陽なんかより 赤く顔を染めている 見惚れてしまったせいか また言葉が遅れてしまう


「・・・・ああ いきなりは 今後なし」

 精一杯の抵抗をここでやっと切り出し 彼女の頭に手をやり優しくなでた


 彼女は抵抗もせず その手が頭から離れるまでおとなしく撫でられている


 彼女はふてくされるより さらに喜んでるのか

「許可をもらえればしてもいいんですよね?」


「キミってやつは・・・・前もいったが 私とキミは認められないんだ」

「そうですね~ 学校外で今度からしましょう~」

 彼女は 私の言葉を無視するかのように 次のキスする場所を提案してきた


「だか・・・・」

 再度注意をしようと声をかけようかしたら 彼女の手の平が 私の口に当てられた


「私にはまだ 権利はあるんです」

 そう 彼女は 諦めをみせない 強い大きな瞳 私が今どんな顔なのか 映していたが太陽も落ちて

 暗くなり 確認することができなかった




 彼女とは途中まで一緒に帰り その間 お互い会話もなく 別れ際に 彼女は


「先生 また明日ね」


 すっかり日も落ちたので 彼女の手を振る仕草しかわからなかった



「ふぅ・・・ごくん」

 また コンビニでビールと弁当を帰り シャワーを浴びて 一息ついていた

 ビールの缶をもったまま 缶をなぞり 彼女の事を思い出していた


『私と付き合ってみませんか?』




『私は"本気"ですよ?』




『私にはまだ 権利はあるんです』



 彼女の言葉を思い出す 権利とか・・・・そんなのは私は教師で キミは生徒だ

 それ以上に いくつ年が離れてると思ってるんだ・・・・


 言い訳を捜しても 私は 彼女の本気を 否定することはできない


 嘔吐した 私を蔑むどころか 心配して 事後処理までして 嘔吐した口にキスまでしてきた


 そんな 彼女の"本気"を否定したいなんて どんな傲慢なんだ



 そう



 その"本気"が 私には 耐えられない・・・・重いとか そんなことじゃない

 信じることができない


 そんなものは存在してない


 そんなものが存在しているなら 私はこんな風になってない



 私は そんなものに裏切られて きたんだ

 幼い時からずっと・・・・



「!!!!!!!!!!」


 まただ また・・・・


 腹部が逆流する 


 フラッシュバックする  目の前に あの光景が映る

 耳鳴りのように どす黒い 塊は 声にならない音を奏でてくる・・・・


 だめだ これはやばい・・・トイレまでいけそうにない



 その場で 口から 胃酸と 少量の食べ物が 吐き出されてくる


「おえええぇぇ・・・・」

 息が・・・・

 止まらない 嘔吐に口も 鼻からもでて 呼吸がしづらい・・・・


「かはぁ・・・・はぁはぁ・・・・はぁはぁ・・・・」


 呼吸を整えようと必死に 落ち着こうとするのに まただ・・・・

 目をどれだけ瞑ろうと 耳をどれだけ塞いでも  あの光景が止まない 音が止まない


 意識が 飛んでいく・・・・






「うう・・・頭がいた・・・・」

 どれくらい気を失ったのかわからない不安から 時計を見ると 6時を回っていた

 床は嘔吐をまき散らした状態で 顔も服も 何とも言えない 匂いで 部屋もすごいことになっていた

 そのまま その場で服を全部脱ぎ その服で 床を掃除して ゴミ袋にいれた

 窓もあけ 換気をして 風呂に入った


 シャワーを浴びながら 意識をしたくないと 思うが 自分の意思ではどうにもできず

 一言 漏れた


「久々にあそこまで 重たいのが来たな・・・・」






 なんとか学校までは これた。あれ(・・)とは長い付き合いだ 体調が悪かろうと それで仕事を休むわけにはいか

 い 仕事でもしてれば 忘れるだろうと思い 胃の痛みが鳴りやまないのを我慢しこうして半日が過ぎた


「先生 進路の紙持ってきました」


 職員室で昼食をとっていた時 ふと クラス委員をみた

 そうしたら 後ろの方に見知った顔がいた 木下も 付き添いできてた

 チラっと視線を送り すぐにクラス委員に視線を戻し プリントを受け取った


「ありがとう」

 一言お礼をいい プリントをしまいながら木下には視線を送らず 弁当に箸を伸ばし 昼食を続けた


「じゃ 先生しつれいします いこ 弥栄」

「失礼します」


 木下の声 今のは怒ってたな~ なんでわかるんだろう そんな疑問も 思い当たるので 考えないようにした


「先生」

 木下の声だと分かったが 無視をするわけにはいかない

「どうした?」

「これ どうぞ 飲んでください」

 そういうと 木下は、胃薬と肉体疲労の錠剤を置いて行った

 それに見とれていたせいか 木下を見やると すでに その場にはいなかった


 弁当を食べ終えた 私は 木下からもらった薬を飲んだ



 あいつ 私の家に 盗聴関係つけていませんか? なんて 疑問も浮かんだが 馬鹿らしくて 泡のように消えた



 木下か・・・・



 そう 心のつぶやき さっきクラス委員がもってきた 進路の紙をを取り出し 木下の進路の紙をみた




 思わず 吹き出しそうになった



 1次志望 彼女

 2次志望 奥さん

 3次志望 ○X大学




 やりなおしだな・・・・

 そう心に 彼女にはまた 個人的に指導する必要・・・・と

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