第23話 ブレイブヴァイン

「オルゴンデール級災厄獣九体! 篠々木司にレーザーを発射! ですがこの反応は……まさか!?」


 中央司令室では誰もがさらなる深刻な事態に心が挫けそうになっていた。


 三騎士の大破、百合の命をかけたデスディルシステムの始動、篠々木司に迫った災厄獣。


 オルゴンデール級災厄獣が十一体現れただけでも深刻だったのに、そこに追い打ちをかける容赦ない事態が襲ったのだ。誰かが死ぬ事を平気で受け止められる者などいない。


 しかし、それはさっきまでの話だ。


 今、その最悪の事態は変わった。変化するきっかけが起った事を全員が実感していた。


 司に放たれたレーザーと共に現れたあの輝き。あの輝きの正体を災厄獣対策室にいる者達は認知しているからだ。


 「ブレイブアクセス反応です! 災厄獣のレーザーは無効化! 閃光の後、完全修復された三騎士がヴァインの元へ向かっています! セントレイに生命反応確認! 司君は無事です!」


 光を放つ三騎士がレーザーによる爆煙の中から飛び出した。


 司達を乗せたセントレイを先頭にゼルグバーン、ティーンベルが地上からヴァインの元へと走っている。


 司は望遠カメラでの映像と、コックピット内の反応で乗っている事が判明した。ダイスケも一緒だ。シグは三騎士と一体化したようで、端末の姿はなくともシステム反応がはっきりと確認できる。一人と一匹と一つは無事だった。


 「三騎士合体シークェンスに突入! ブレイブリンクは理想図を維持! ブレイブアクセス成功予測100パーセント! ココロシステム起動数値10000突破! 全行程オールグリーン!」


 事態は最善へと動き始めていた。さっきまであった絶望感や恐怖は何処にもない。


 ブレイブヴァイン合体率はブリーフィング時と違って確率が跳ね上がっている。実行させるため、オペレーター達は一心不乱にそのサポートに回っていた。


 「司……お前は……」


 唯は画面に映し出されたセントレイに乗っている司を見て驚いていた。


 理由や理屈はわからなくとも状況が説明している。三騎士を復活させた輝きの中心にいたのは司であり、ブレイブアクセスの叫びもマイクが集音している。奇跡としか言えない事態を司が引き起こしたのは明白だった。


 「ブレイブヴァインになるには三つのエネルギーが必要だ」


 唯の隣、司令席に座る折原は誰に言うでもなく呟いた。


 「それは人の持つ思いの力。すなわち希望、勇気、愛の事を指す。この三つに反応してココロシステムというブレイブヴァインの根底たるシステムは合体を承認するのだ。ブレイブアクセスの発言と共に」


 中央スクリーンには三騎士が災厄獣からのレーザー攻撃にさらされる映像が流れていた。だが、それは全て三騎士の装甲に弾かれ何の問題もない。先程とは違い、ヴァインを瀕死に近いダメージを与えた攻撃が全く効かなくなっていた。


 「だが、その三つの思いは何よりも正の心で優先されなくてははならない。ココロシステムは負の心に決して反応しないからだ。対極である絶望、恐怖、憎悪の思いに負けてしまう者はブレイブヴァインに合体する事はできず、ヴァインを操縦する事はできない。負の心に勝てる正の心を持つ者が搭乗者として選ばれるのだ。そして、それ故にこの地球に住む者で搭乗者になれる者は――――――ごく少数しか存在しない」


 折原は自分の白髪を弄りながら続ける。


 「十二年前の災厄獣襲来は人間達を変えてしまった。徹底的な絶望を植え付けられ、刃向う勇気は圧倒的な恐怖に侵された。そして、誰もが災厄獣への憎悪を募らせ守るべき愛を失い…………人間は負の心で満たされ“臆病者”になってしまった。これらを真に克服するのは簡単ではない。人間はブレイブヴァインに乗る資格を持っていないと言っていいだろう。きっと、篠々木司以外は」


 折原は唯の方を向くと微笑を浮かべた。


 「きっと、司君のブレイブヴァインへの思いはひたすらに純粋なのだろう。災厄獣を倒す英雄ではなく、自分を救ってくれた英雄としての思いが強い。それは司君に輝く心を与え、どんな負の感情も払う力を持ったのだろう。司君が災厄獣に勝てたのは偶然ではない。あれは必然だったのだ。そして災厄獣がそんな司君を危険視したという事も」

 「……はい」


 唯は司をこの世でもっとも見ている人物だ。だからいつもブレイブヴァインに夢中で、毎日それを思いながら過ごしている司を知っている。


 そして、その思いはどんな事も乗り越えられる強さに変わったという事も。


 愛する弟なのだ。そのくらいは理解している。


 その思いの強さに例外は無い。だから司は今――――――


 「ココロシステムは“心”というあやふやなモノに反応する。そのため理解不能で信用できないシステムであり、操縦者を選べないリスクも生み出す“やっかいモノ”だ。だが、故にその起動はどんな状況からでも逆転できる可能性を秘めている。そう、どんな状況でもだ」


 三騎士がヴァインに迫っている。通信機器は故障しているのでヴァインにいる百合がこの状況をどう思っているのか知る事はできない。だが、驚いている事は容易に想像できた。さっきまでの状況が好転するなど夢にも思ってなかっただろう。


 「フォーメーションロック! ブレイブヴァインへの合体! いけます!」


 準備は完全に整い、折原の座る司令席に大きく派手なテンションレバーが現れた。


 ブレイブアクセスはブレイブヴァインになるためのキーワードだ。だが、それだけでブレイブヴァインになる事はできない。


 一億もの災厄獣を倒せる機体へ自由に合体させる事はそれだけで危険なのだ。


 それは操縦者がどれだけ善であろうと関係ない。強いとはそれだけで周囲に脅威を知らしめる。その力を押さえるブレーキは必須なのだ。


 よって、ブレイブヴァインへの合体にはキーワード以外にもロンバルディ災厄獣対策室司令の許可も必要となる。


 その許可を与えるのがこのファイネストレバーだった。


 折原はファイネストトレバーに手を置く。


 「真実の姿をさらせ! ブレイブヴァイン!」


 最終許可が発令。合体フォーメーションと中央司令室のサポートリンクが完了したヴァインと三騎士は、十二年ぶりにその真の姿を現していく。

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