第12話 過去のイベント
それは十二年前の事だった。災厄獣によって人類が混乱した最中――――――地球へ落ちて来た隕石があった。
人類はその隕石が落ちた事を認識していた。だが、誰もそれを調べようとはしなかった。
世界各国は災厄獣の侵略でボロボロであり、滅亡を前に好奇心を動かす者はいなかったのだ。
その隕石を――――――救世主と認識するまでは。
隕石が降った日から災厄獣の動きが変わった。人類を弄んでいた災厄獣達が意志を統一したかのように一点へ集まっていったのだ。
場所は日本東京都港区、隕石が落下した東京タワーを目指して進行する数は少なく見ても一億体。太平洋に線引くように進行するその姿は圧倒的と呼ぶに相応しく、災厄獣の母(マザー)を出迎えるような光景だった。
さらに人類は闇に染め上げられる。誰もがそう思った。
しかし、それは違った。
災厄獣は決して母を迎えるため集まったのではない。
現れた敵。その隕石を滅するため――――――“巨大人型兵器”を破壊するために災厄獣はその膨大な数を集結させたのだ。
その巨大人型兵器はこれを迎え撃った。
味方は誰もいない。人類は既に敗北しており、共に戦える仲間は地球に存在しなかった。
一対一億という多勢に無勢と言うのも馬鹿らしい戦いはこうして始まった。
地平線を埋める量の敵がたった一体を狙って攻撃してくる。
その現実はどう考えても巨大人型兵器の敗北だった。
だが、敗北したのは災厄獣の方だった。
たった一日が過ぎた時、東京の荒野に立つ姿は災厄獣ではなく巨大人型兵器の方だったのだ。
巨大人型兵器は、世界に残った災厄獣達を全て殲滅させるとその機能を停止した。
その体を大鷲、虎、狼、人の四つの姿に分離させて。
当時、形ばかりとはいえ唯一の災厄獣抵抗組織として動いていたロンバルディ社はこれを回収した。
各国はコレに難色を示したが、研究資金の完全提供とその把握という形で納得する。
政治や治安に経済の立て直しといった復興に手一杯のため、とても巨大人型兵器を独自に調べる余裕はなかったのだ。
それに何であれ、一つの国が復興の最中に“兵器”を研究すれば世界から強烈な批難を受ける事は必死で、隠し通す余裕が無いのもあって難しかった。
しかし、だからといって民間企業に未知の兵器を勝手に研究されるのは困る。
なので、国以外からの援助を受けない研究資金とその把握という事で決着がついた。
研究には何かと金がかかるモノであり、その把握さえしておけばロンバルディ社が何をしているかわかるからだ。
こうして救世主の研究はロンバルディ社によって行われた。
全てが未知の技術のため難航したが、分離した四機を調べると様々な事が一気に判明していった。
まず災厄獣は危険度の高いモノに対して集まり破壊する習性がある。
地球で言うならミサイルや戦車や戦闘機といった兵器に当たるモノがその代表で、最初に軍事施設が狙われたのはそのためだった。宇宙から飛来し、知的生命体の抵抗力を奪う所から始めるのが災厄獣のやり方なのだ。
危険が無くなった後はゆっくりと人間や動物や植物を弄ぶように滅ぼし、駆逐しきった後はまた別の星を探すため離れていく。生命を枯渇させ死の星に変えるべく災厄獣は存在していた。
そう、つまり災厄獣達は宇宙を彷徨う生命殲滅機械群なのだ。
これまでも多くの星を滅ぼしており、その脅威を宇宙全域に広げている。目的は不明、ただ生命を見かければ滅ぼす思考を持った恐るべき怪獣だった。
しかし、それを甘んじて受け入れる程、星の生命達は災厄獣に諦めていない。
遙か遠くの星が対災厄獣の基礎兵器構造を作り上げ、それは未完成ながら様々な星々を巡り完成させていった。
例えその星が滅ぼされようとも、誰かがその対抗兵器を完成させてくれると信じて。
そして、ついにその兵器は地球への旅路の果てで“ほぼ”完成する。
大鷲のセントレイ、虎のゼルグバーン、狼のティーンベル。
この三騎士と呼ばれるロボットとヴァインの四機が合体して生まれるのがブレイブヴァイン。宇宙に存在する対災厄獣究極最強人型決戦兵器の名前だった。
だが、ブレイブヴァインは完全自動制御のロボットでは無い。
バルビルシグナスとエリポノルユーリと呼ばれる“二機”の超AIが搭載されているものの、それらは補助でありメインではない。
つまりパイロットが必要なのだ。
ブレイブヴァインを動かすには人間が乗らなければならない。
以前、ブレイブヴァインは地球にやって来た時パイロット無しで動いていた時があったが、これはデスティルシステムという緊急プログラムを起動したためである。
補助AIであるエルポノルユーリがブレイブヴァインを動かす事ができるシステムで、これにより一億の災厄獣を倒したのだ。
その際にAIにかかる負担は相当に大きかったため、もうブレイブヴァインに合体できなくなってしまったが“ほとんど”の災厄獣はもういない。
四機を調べた事で災厄獣への対処もわかり、今もロンバルディ社は活動を続けている。
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