浪人中の魔王様!?

南白イズミ

第1話  ようこそ魔王様!!

『浪人』

辞書的な意味では浮浪人と同じ意味で一定の住居や職を持たず、方々をうろつく者である。

この物語は大学受験に失敗し浪人生となった将也が異世界の魔王となり、魔王生活と浪人生活の間をうろつく物語である。



8月の暑さが冷め止まない9月下旬、外の暑さとは裏腹に冷房の効いた予備校の中で模試の結果を見て青ざめる将也がいた。

「夏期講習の結果がこれかよ....」

将也は死んだ魚のような目で模試の結果が書かれたプリントを眼鏡のレンズ越しに見ていた。

「夏期講習の成果が出ている人も出てない人もこれからまだまだ成績が上がるので変わらずに頑張ってくださいね、それではお昼のチュートリアルは終わりです。」

将也の在籍している国公立理系クラスのチューターが教室を出て行った。

将也は自分の荷物を持って次に授業が行われる教室へ向かった。


浪人生将也の一日の流れはいたってシンプルである。

朝、1人暮らしのアパートを出てバスに乗り夕方まで予備校で授業を受ける。授業が終わったら自習室へ行き9時過ぎに予備校を出る。10時には家に着きご飯を食べ、深夜2時過ぎまで勉強をして寝る。そんな生活を送り始めて約半年、マンネリ化と思うこともなくただ動物の習性のように将也の一日一日は過ぎいていく。

今日も代り映えのない一日だった。強いていうなれば夏期講習の時間全てを否定された、そんな日でしかなかった。


今日も同じ時間の流れ、同じ景色、同じ一日、将也はいつも通りのバスに乗りアパートへ向かった。

いつもは英語の単語が書かれた手帳を眺めながらバスに揺られているのだが、今日の将也は単語帳を開いたまま眠ってしまった。


「お客さん、終点ですよ。」

バスの運転手のマイクを通した声に目を覚まし、バスの外を見た。

真っ暗だった。バスが終点に着いたことを理解するのに少し時間がかかった。

スタスタとバスの出口へ向かい、運転手にバスの定期券を見せてバスを降りた。

降りた場所は月の光で照らされていた森の中だった。

「・・・・・んっ?」

将也は目を疑った。いつもはバス停の目の前にあるはずのアパートがないのだ。

「あ、あの....」

バスの運転手に場所を聞こうと思い振り返った。

しかし振りむいた先には静まり返っている夜の森が広がっていて、バスや道路はそこにはなかった。

「どこだここ.....?」

すると後ろから誰かが近づいてきた。

「にゃはは!ようこそトリーマムへ魔王様!!」

声の方を見ると、ダボダボのフード付きマントを被り、ネコみたいな目をした10歳くらいの女の子が笑いながら近づいてきた。

「あ..あっ...?」

しばらく人と会話をしていないせいか、将也は頭に思い浮かべた言葉が口から出ず、ただ戸惑うことしかできなかった。

「え~っと、言語と文字を共通させる魔法をかけたけど伝わってるかな?」

その少女が将也の顔を覗き込んだ後にニコっと笑った。

「突然ですがあなたがこの世界の新しい魔王です!」

そう言うと少女は将也の腕を掴んだ。

「ま...まってよ!!」

腕を振りほどき将也は後ずさりをした。

「な、なんで僕が魔王なんだよ!?それにここどこなんだよ!?」

すると少女は腕を組んで考えるような仕草をした後、笑顔で答えた。

「そっかぁ...突然でわからないよね。ここは君のいた世界とは違うトリーマムって言う国だよ。そして私はニアね!よろしく魔王様!」

「魔王様って、僕は魔王でもないし、トリーマムって国も知らないよ!」

将也は身を震わせたままオドオドとしている。

「私が君をここに連れてきたのさ。今私達の仕える魔王様が姿を消してしまったので新しい魔王様を異世界から呼んだってワケ!!」

ニアは腰に手を当て、平らな胸を張って答えた。

「異世界?魔王?何言ってるんだよ!僕を元の場所に返してくれよ!!」

将也は泣きそうになりながら言った。するとニアの顔に笑顔が消えた。

「ふーん、魔王になる気はないし帰りたいのね....」

瞬時にニアは黒い霧に囲まれ姿を消した。それと同時に将也は胸の前に何かがあることに気づいた。

さっきまで目の前にいたはずのニアが将也の背後から胸にナイフを突きつけている。

「うわっ!?」

「君はこの状況を理解してないみたいね、人間1人を殺すことなんて私達魔物にとっては日常茶飯事なのよ?まだあなたは魔王の候補でしかないからここで始末してもかまわないの。」

ニアの低く冷たい声は目の前のナイフよりも将也に鋭く突き刺さった。

「よく考えてね。もう一回だけチャンスをあげるよ。魔王になるの?ならないの?」

将也は汗をだらだら垂らしながら答えた。

「ま、まおうになる...」

するとニアはまた笑顔になりナイフを懐にしまった。

「これで新しい魔物の時代が来るわね!それでは魔王様、明日改めて迎えに行くのでそれまで家で待っていてくださいね!」

ニアが指をならすと将也の視界は真っ暗になり、気が付いたら自分のアパートのベッドの上に横たわっていた。

「あれ?自分の部屋だ...夢だったのかな...」

どっと疲れが出てきて将也はそのまま寝てしまった。


次の日の朝、いつも通りに起き、朝食を食べて予備校へ向かう準備をした。

「昨日の夢はすごかったな...現実逃避にもほどがあるよ。」

将也は予備校へ行くためにアパートのドアを開けた。

「えっ!?」

将也の目の前に広がっていたのは広くて豪華な廊下だった。

「まるでお城の廊下だ....」


                       ~ようこそ魔王様!!~ END



   将也(まおう)

   レベル:1            ちから:  10

 E ふでばこ             すばやさ:  50

 E 単語帳             たいりょく:   3

 E めがね              かしこさ:1500

 E ポケットティッシュ       国語偏差値:  55

 E スマホ             数学偏差値:  58

                  英語偏差値:  46

                  化学偏差値:  44

                  物理偏差値:  57

                政治経済偏差値:  42

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る