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私は窓際に置いた鈴蘭の花を指で触る。白くて小さな連なる花は、まるで私達三姉妹みたい。
桜乃宮家の豪邸で、大きなプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、それでも枯れないように必死で根を張って生きてきた。
蘭……百合……向日葵……。
私達は完全に名前負けしてる。
大輪の花は私達には似合わない。
凍り付いた私達の花びらを、太陽はその名の通り、眩い光を放つ『太陽』のように温かな眼差しで、凍った花びらをゆっくり溶かしてくれた。
凍り付いた花が明るい太陽の下で、根を張りみずみずしい葉を繁らせ、恋の花を開かせた。
ーー太陽……。
あなたは……気づいてないでしょう。
あなたには、周囲にいる人を温かい気持ちにさせる、不思議な魅力があることを……。
私達はあなたに逢えたから変われたんだよ。
ーーあなたも……
私達に逢えて、少しは変われたかな。
「百合子も菊さんの家に一緒に住むだろう?」
「どうしようかな……」
「なんだよ。住まないの?」
「私とそんなに同居したいの?太陽がどうしてもってお願いするなら、私もすぐに引っ越すけど?」
「こいつ、生意気だな」
太陽が私をギュッて抱き締めた。
そして、息もつかせないほどのキスの雨を降らせる。
「……っ、息出来ないよ」
「百合子、俺と一緒に暮らそう。ていうか、『はい』と言うまで、キスは止めないよ」
「……だったら、言わない」
太陽はニヤリと笑い、私の唇を奪った。
部屋に漂う甘い香水の残り香が、私達を優しく包み込む。まるで薔薇の花びらに埋もれて抱き合っているような心地よさ。
「そうだ。赤ワイン買って来たんだよ。マンションの荷造りもすんだし二人で乾杯しよう。百合子も飲むだろう?」
太陽にひとつだけ秘密にしていることがある。
実は、お酒を飲むと蘭子姉さんみたいに記憶をなくしてしまう。
だから、私は人前でお酒は口にしない。
「ううん。やめとく」
太陽に私が泥酔した姿は見せたくないから、一緒に暮らしても、絶対にお酒は口にしないと決めている。
「何だつまらないな。百合子はアルコールに強いと思ってた。一口も飲めないのか。だったら、キスで乾杯」
太陽はそう呟くと、私の唇を啄むようにチュッとキスを落とした。
ショートヘアだった私の髪は今はセミロング。今年のクリスマスには、お父様が好きだったロングヘアになっているだろう。
太陽は私の髪に優しく触れ指を絡める。
「ねぇ、太陽……。太陽は運命って信じる?」
「運命?そんなもの……今まで信じた事はない。両親が死んでずっと一人だったし、そんな悲しい運命なんて受け入れたくなかったからな」
「きっとね……。お父様と椿さんがこのお屋敷に太陽を導いたのよ。太陽はここに戻る運命だったの」
「父と母が……俺を……」
運命に翻弄されながらも、その運命に逆らうことなく力強く生き抜いた私達の両親。
私達もまた、過酷な運命に泣き苦しんだ。
ーーけれど、これからは……
前を向いて歩いて行ける。
どんな運命にも負けないで、生きていける。
ーーあなたが……
人を愛することの素晴らしさを……
私達に教えてくれたから。
ーー私達は……
ひとつ屋根の下で……
甘美な愛に包まれ……
ゆっくりと時を刻み……
やがてひとつの家族となる。
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