太陽side
54
麻里の部屋の鍵をまだ持っていた俺は、その鍵でドアを開ける。
ドアを開けた途端、聞こえたのは俺の名を呼び助けを求める微かな声……。
室内に踏み込むと、目の前に無残な光景が広がる。それは……死人のように横たわる麻里を浩介が暴行している姿だった。
俺は土足のまま走り寄る。浩介を突き飛ばし、怒りにまかせ拳を振り上げ殴りつけた。浩介は直ぐさま俺に殴りかかる。睨み合う目と目。殺意に満ちたその目は、俺を捕らえ部屋には血飛沫が飛び交う。
「信じていたのに……」
浩介は俺が唯一心を許した相手。握り拳が浩介の顔面に食い込んだ。バタリと仰向けに倒れた浩介に背を向け、恐怖に震える麻里を抱き起こした。
「麻里、もう大丈夫だよ。麻里、しっかりしろ!」
「……た……いよぅ……」
麻里は泣きながら俺にしがみつく。
テーブルの横に無造作に置かれた鞄から、札束が見えた。
「その金は……」
浩介が「ゲホゲホ」と咳き込み、唇の血を右腕で拭いながら俺を睨み付けた。
「この金は俺のものだ。好きでもねーくせに、麻里の体を散々弄んだお前に、俺が天罰を与えてやったんだよ」
「天罰……?まさか……この金は……」
「この金はお前には渡さねぇ!」
浩介がズボンのポケットからナイフを取り出した。ナイフの刃先が不気味に光る。
「浩介やめろ、俺達……仲間だろ」
「仲間?誰が仲間だって?俺は入社した時からお前が気にくわなかった。大した能力もねぇくせに、お前は事務所でぬくぬくと仕事をし、営業成績を上げれば特別手当てもガッポリ入る。同期入社の俺よりも給料は高い。俺ら作業員がどんなに残業してもその給料には追いつかねぇ。割が合わねぇんだよ!それにお前は、俺の麻里を弄んだ……」
「浩介……。お前は俺をそんな目で見ていたのか」
「社長や得意先からチヤホヤされているお前が、俺はずっと疎ましかった。お前の大切なものをいつか奪ってやろうと、ずっとチャンスを狙ってたんだ!」
「まさか……、俺の金を盗んだのはお前だったのか?」
「ああ、そうだよ。お前の金を根こそぎ奪ったのはこの俺だ。お前が一文無しになったら、麻里も愛想尽かすと思ったんだよ。お前はキャッシュカードの暗証番号を生年月日にしていた。部屋で飲んだ時に、通帳やカードの隠し場所も俺に話した。
俺はあの日、お前の洋服と靴、帽子を拝借し、マスクとサングラスで変装し、手袋を装着しATMで金を引き出した。警察はお前の虚言だと思ってるさ」
「浩介ーー!」
浩介の胸ぐらを掴み殴りかかろうとした時、浩介は俺の右胸にナイフを突きつけた。ひと突きされれば、心臓に突き刺さり俺の命はない。
「俺さ、三笠製鉄の集金に手をつけちまってさ。その穴埋めにどーしても金が必要だったんだ」
「……どうしてお前が集金なんて」
「俺のアパートと三笠製鉄は隣だからな。三笠製鉄の事務員と顔見知りなんだ。遊び金欲しさに偽の請求書を回し金を集金した」
「浩介、お前いつからそんな人間になっちまったんだよ!」
「お前の苦しむ顔を見れば俺はそれで満足だったのに、お前は苦しむどころか、桜乃宮財閥の豪邸に転がり込み悠々自適に暮らしている。なんでお前ばっかりいい思いをするんだ!お前だけ幸せになんかさせない。全部ぶち壊してやると決めたんだ」
「浩介……まさか桜乃宮家の強盗事件も……!?この金はあの時に盗んだ金なのか!?」
「そうだよ。それがどうした。これは序章だ。桜乃宮家の令嬢を誘拐し身代金を要求したら、数億の金になるだろう。なぁ、太陽。お前に最後のチャンスをやる。俺と組まないか?俺達、億万長者になれるんだぜ」
浩介の目は狂気に満ちていた。
「浩介、バカなことはよせ。警察に自首しろ」
「自首?ハン、笑わせんな。俺の背後には闇の組織がついてんだぜ。俺の代わりにお前が罪を被り死ねばいいんだよっ!」
浩介は腕を振り上げ何度も切りつける。俺は俊敏に身をかわすものの鋭い刃先は上着をも切り裂く。
「浩介、これ以上罪を重ねるな!俺が警察に付き添ってやる!」
「お前バカじゃねぇの?お前が死ねば全て丸く収まるんだよ」
「やれるもんならやってみろ!俺達は仲間だ。お前は俺を殺せない」
「仲間?くだらねぇ。人を信じることが出来ねぇお前が、綺麗事を言うな!俺の仲間は組織だけだ!」
これ以上浩介に罪を犯させるわけにはいかない。何としても、食い止めなければ。
浩介が手にしていたナイフを奪い取ろうと手首を掴み、俺達は激しく揉み合う。
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