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それからしばらくして、ダイニングルームのドアが開いた。コツコツと靴音がする。菊さんはダイニングルームに行き、お嬢様達を迎える。
ダイニングルームに人の気配は感じるものの、キッチンからお嬢様達の姿は見えない。
「おはようございます」
「菊さん、おはようございます」
菊さんの声と、美しい女性の声がした。
声質も口調も昨夜の二人とは異なる。
「蘭子さん、新しい住み込みの家政夫さんをご紹介します。木村さんこちらへ」
菊さんに呼ばれ、俺はダイニングルームに行く。大きなダイニングテーブルの右側に、一人の女性が座っていた。
ひとつにキュッと束ねた髪、お嬢様というより、バリバリ仕事をこなすキャリアウーマンのようだ。
メイクはナチュラル。知性を感じさせる凛とした眉と目。すっと通った鼻筋。形のいい薄い唇には控え目なピンク色の口紅。
容姿端麗、知的で美しい女性。昨夜見た女性とは明らかに別人だ。
「おはようございます。
「おはようございます。
「はい」
俺は彼女をマジマジと見つめる。
ツンとすました態度、どう見ても俺にキスした女じゃないな。
酒乱で、下品で、酔うと男を欲する。
目の前にいる彼女とは、あまりにも違いすぎる。
ダイニングルームのドアが再び開き、二人の女性が入って来た。
一人はショートヘア。目鼻立ちはハッキリしていて、大きな二重の目が印象的だ。メイクはバッチリ、唇にはオレンジ色の口紅が艶々と輝いている。
そして、その後ろから隠れるように入って来たのは……、さっき玄関フロアで掃除をしていた女の子だった。
女の子はショートヘアの女性の後ろに隠れ、ずっと俯いたままだ。
「君はお嬢様の専属メイドなの?」
俺は女の子に驚き、思わず声を掛けた。
「専属メイド?」
ショートヘアの女性が、後ろを振り返る。
女の子はピクンと肩を竦める。
「専属メイド?やだ、何とぼけてんの?この子は
「えー!?彼女が向日葵お嬢様!?」
大声を上げる俺に、ショートヘアの女性が軽蔑の眼差しで俺を睨んだ。外見は上品そうに見えるが、この声質と口調に聞き覚えがある。
掃除をしていた女の子が三女の向日葵なら、彼女は二女の
「バカみたい。いいから早く珈琲出してよ」
「……あ、はい」
俺を睨みつける憎らしい目……。
暗がりでよく見えなかったが、俺に跳び蹴りをした女に違いない。
あの乱暴者が、この桜乃宮家のお嬢様だなんて。
ということは……。
あのツンとすました長女が、やはり俺にキスをした酒乱女!?
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