01-10
気を利かせてくれたのか、その後は少しずつ会話が減って、生徒が多くなる辺りからは、無言。いや、少し距離もあいたし、他人の振りをしている。
中学の頃を知ってる連中もいるが、基本的には二人の仲についてはあまり触れない。そもそも彼らもオタクである裕哉に好感をもっていないからだろう。
だがら、裕哉という人間を見たり評価するとき、みな「いいやつだけど、オタクだし」という。
学校に入れば、もういつもの関係。いつものというのは、高校三年間の関係。
裕哉は教室に入るなり、ゲーム機を取り出して遊び始める。嘉寿は、いつものメンバーのところに行き、いつものように挨拶する。
「おはー」
「おはー。今日は早いじゃん、どうしたのさ」
「いや、別に。早く目が覚めただけ」
本当は、裕哉が迎えに来たからなのだが。そんなことをわざわざ言う必要もない。聞かれたら答えるかも知れないが、でも進んで言うことじゃない。少なくとも、裕哉の評価が今のままでは。
「なぁ、桜井。今日の英語の宿題やってきた?」
別の男子生徒が伺うように聞いてきた。
「なに? 見せて欲しいの?」
にまにまとした表情をする。裕哉のことは忘れておけ。こっちはこっちで輪があって、それを楽しめばいい。
「頼むよ。今日、当たる可能性高いんだよ。鬼の佐々木にわかりませんは通じないだろ?」
「どうしよっかなぁ?」
ノートを取り出してひらひらさせる。
「わかったよ、ほら並んで買った焼きそばパンと交換だ」
「お、気前が良いね。気に入った。ほれ」
ノートを渡して焼きそばパンを受け取る。
「サンキュ! おまえのノートが一番当てになるからな」
「そんなに怖いかね、鬼佐々木が。普通に勉強してれば普通だぞ?」
「ちゃんと勉強してたら、宿題もやってきてるに決まってんじゃん」
別の友人が、そう揶揄する。
「おまえはやってきたの?」
「さっき、写し終えた」
目を輝かせて、自慢げに言う。
「自慢げに言うところか」
「やっぱさ。幼なじみっていいよな」
感慨深げに言った。
「なんだよ、またあいつに見せてもらったのかよ?」
「そう。なんていうか、できないことも含めて見透かされているから、変にしゃっちこばらなくていいっつーかさ。そんな感じ?」
確かにわかる。今更恥ずかしがることもないのだろうけど。だけど、だけどだ。声高に糾弾した人間としては、今になってオレも入れてとは言いづらい。逆に幼なじみだからこそ言いにくいってことも世の中にはあるものだ。
なんていうか、ちっぽけだけど歴史があるから。浅く付き合ってケンカしたら連絡を取り合わなくなる程度のやつとは違う。二年と話してなくとも、状況が許せば同じように話せる。欠点も長所も知っている仲だ。
裕哉は、どうして嘉寿が話しなくなったか知っている。それを知っていることを嘉寿も知っている。そんな関係だ。
「いいたいことはわかるけど、そんな便利に扱ってたらいざってときに見捨てられっぞ」
「まあ、わかってるんだけど。あいついないと俺だめでさあ」
その友人の幼なじみは女子だ。なんというか、男性向け美少女ゲームにありがちな設定だと思う。だけど、事実として彼女は女だ。
その幼なじみに彼氏ができたら、いや好きな人ができたらこいつはどうするんだろう? こんな風にはきっと世話を焼いてくれなくなるだろう。そんなのは自明の理だ。
その点、嘉寿を始めとする二次元を嫁というような人種は同じ人を好きにならなければ問題はない。むしろ、なっている可能性が高いが、他のオタクどもは大勢いる嫁の中の一人。こっちは本気。リアル嫁。愛情度が違う。
「そのダメ人間さをどうにかしないと、将来大変だぞ?」
「なんでよ?」
「いや、いい」
自分には関係ないことだ。今、これだけ楽してるのだ。苦労したときに後悔すればいい。などと、思った。もしかして、自分は嫉妬してるのか?
ばかばかしい。取り戻そうと思えばすぐにでも取り戻せる関係だ。なにをうらやむというのか。
関係を戻さないのは、自分の意志だ。だから問題はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます