さみしいけど、さようなら

六笠はな

第1話 毎日の終わり、そして始まり

「・・・・では続いてのニュースです。政府が膨れ上がった人口の対策について、尊厳死案を本格的に検討していることが本日の会見で発表されました。尊厳死案とは、国民の中から約3億人を無作為に選出し、選ばれた国民は尊厳死という名のもとに安楽死剤投与が行われ、死ぬことが命じられる案というものです。日本の人口が約10億人を超えたことを危惧し、これによって肥大した人口を縮小するのが狙いです。この案に対し、各地では連日反対運動が行われており、国民の反対は否めないものになっています。・・・」

「ねー母ちゃん、本当にこんなことあるのかな、あったら選ばれないかなー」

「バカなこと言ってないで早くお風呂入って来ちゃいなさい。」

んー。と返事をしてケータイをいじりながら浴室へ向かう。友達に「なぁ、ニュースみた?」ってメールでもしておくか。


僕の名前は雨宮瑞希。高校三年生で、会社員の父、近くのスーパーでパートをしている母、上京した二つ年上の姉がいるごくごく普通な四人家族だ。来る日も来る日も特に変わったこともなく、平凡な日常を過ごしていた。

ついこの間までは・・・


それは、まだ夏が顔を出し始めようとしていたころの話だった。

今思えば、この時からしっかり慌てておけばよかったのかもしれない。

きっと何も変えられなかったけど、何も考えないよりはマシだった。そう、今は思っている。


次の日、高校では尊厳死案についての話で持ち切りだった。

早速下駄箱で上履きに履き替えていると、

「おはよー瑞希。お前昨日のニュース見た?あれおっかないよなぁ」

同じクラスの篠崎裕だった。

裕とは小学校からの仲で家も割と近所というのもあり、いわゆる幼馴染だった。

まぁこんな田舎町、大半が幼馴染みたいなものだけど。

「見た見た。あれ本当にやるんだったら選ばれないかな。」

「そう言ってるやつは大体生き残んだよ。やべ、チャイムだ。教室いくか」

二人で急いで教室に向かった。ぎりぎり時間に間に合ったけど、また担任の先生に注意されてしまった。


あっという間に昼休みになり想像通りに学校のいたるところで尊厳死案について話している様子だった。

僕らはあまり深くも考えていなかったので、いつも通り裕と二人で昼食をとっていた。

購買に自販機に飲み物を買いに行くと言ったら裕に「俺のも買ってきて」と言われたので一人で東棟へ向かっていた。

自販機にお金を入れ、何を買おうかと悩んでいた時に後ろから手が伸び勝手にコーヒー牛乳のボタンが押された。

驚いて後ろを振り返るとお腹を抱えて笑っている唯がいた。

「お前さぁ、ふざけんなよほんと。」

「いやね?あれコーヒー牛乳なんてあったんだーって思ってさ?見ようとしたらボタン押しちゃったんだよ」

「うそつけ、お前毎日コーヒー牛乳しか飲んでないじゃんか」

「えー、それは誤解だよー。ねぇこれいらないの?」

「もういいよ、俺牛乳苦手なの知ってんだろ。あげるよそれ。」

ラッキー!と言いながら唯は友達の元へ戻っていった。

僕は呆れながら自分の分と裕の分の飲み物を買って、教室に戻った。

 

彼女の名は藤代唯。唯とも幼馴染で、幼稚園の頃からの仲なので裕よりも長い付き合いになる。唯は僕とは違い、元気で活発な子なんだけれど、元々病気がちで体が強い方ではなかった。それもあってか校庭でみんなが遊んでいるような時も二人で教室で過ごすなんてことも多かった。なので女の子と話すのがちょっと苦手な僕だけど、唯の前ではいつもの僕でいれた。そんな存在だった。


裕が「遅い」と文句をたれてきたけど、「買ってきてやったんだからありがたいと思え」と飲み物を渡して、二人で昼食をとり終えた。

校内はあの話題で少しどよめきつつも、無事に一日の授業が終わった。

僕は部活に入っていなかったので、サッカー部の部室へ向かう裕也を見送り、そのまま家に帰った。


ニュースがあった翌日の今日はみんなあの話題に関心があったようだけど、あの後しばらく音沙汰はなく、徐々に僕らの記憶から消えていった。

きっとなにか悪い冗談だとその時僕も、多分他の人も思っていた。


そして突然、来たるべくしてその報せはやってきた。

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