月夜のパトロール
釉月
1
それは月がまんまるで夜を明るく優しく照らしている日。
とある住宅地の一画、空き地では猫達の集会が静かに行われていた。
「だーかーらー」
真っ白い長毛を少し浮かばせて、少し怒っているのはユキ。
ふわふわとした毛並は今日、お風呂にでも入ったのだろうか。
「一丁目はやめて三丁目にしようよ!」
ユキの向かいに座っている三毛猫、タマはユキの発言を難しそうな顔で聞いている。
少々、不機嫌なのかしっぽがときおりパタリと揺れ、でもっと髭を震わせた。
「元々のルートは一丁目で決めていただろう。だから、昨日は五丁目にした」
月明りを頼りに空き地の地面に描かれている謎の模様…恐らく町内の地図を爪で指しながらそうだろ?とタマはユキを睨みつけた。
どうやら毎夜行っているパトロールの場所でこの二匹がもめているらしい。
他の猫達はどうしたものかとひそひそと話し合い、それこそが時間の無駄だから早くしろと見つめている。
「今日の一丁目は祭りの帰りで人間が多いんだ!そんな中に突っ込んだらこっちが危険でしょうが!」
ふーっと本格的に毛を逆立て始めたユキにタマはだからと言葉を返した。
「そうなるのを見越して予め人間の帰りルートを確認しただろ」
地面に描かれてる地図を爪で指しながら、タマはユキに負けじと毛を逆立てた。
「祭りの帰りが集中するのは三丁目と五丁目。一丁目は交通規制の関係で人間は普通通れないんだ。美代ちゃんが言っていた」
祭りの帰りをどうするか、タマの飼い主である美代ちゃんが母親と話していたらしい。
その光景を思い出したのか、タマはふっと口元を緩め毛を気持ち落ち着かせた。
「つまり、一丁目でうろついている奴の方が怪しいとタマは言いたいんだな」
それまで無言を通していた真っ黒の毛並みのノワールは金色の瞳を細め、すっと立ち上がった。
この会議においてのボスであるノワールの答えが出たらしい。
先程まで勢いよく毛を逆立てていたユキもそれに合わせるかのように溜息を吐いて、大人しく座った。
「本日は予定通り一丁目をパトロールすることとする。ユキの言う通り、人間が多いかもしれないしタマの言う通りいないかもしれない」
しかし、我々は人間でないから関係がない。
そう言うとノワールは空き地の隣にある塀にひょいっと飛び移った。
それに合わせるかのように他の猫達も身軽に塀に飛び移っていく。
「各自、班に分かれて一丁目を囲むように。最終は一丁目の真ん中で合流。やっかいな人間に出会いそうになったら速やかに物陰や屋根の上に隠れるように」
にゃーとノワールの凛とした泣き声が響き渡ると同時に、猫達は一斉に各々のパトロール場所へと向かう為に塀の上を走りだした。
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