第57話 移動式結界

 ザン!

 そんな音が聞こえたかの様に綺麗に首が飛ぶ。けどそれは勿論こちら側ではない。それはドラゴの奴が受け持った奴の首だ。こちらはと言うと、勿論スパッとなんて行けなくて、首の骨に阻まれた。いやいや、なんでそんな抵抗なく切れるんだよ? やっぱり剣の違いか? 自分のは普通の店で買った普通の剣だからね。ドラゴの奴の様な、代々受け継いできた剣じゃない。

 そう、決して腕の差じゃない。それよりも、剣の差がデカイんだ。とか思ってると、首を飛ばしてない自分の方の死者が執拗に暴れだす。

 

「くっこの!?」


 自分はそいつが臭い口を近づけてくるのを必死に片手で押さえつけつつ、首の中ほどで止まってる剣を思いっきり引く! するとようやく、その首が体と分離した。体は腐ってても、やっぱりまだ骨までは腐ってはないんだね。

 

「これはキツそうだな……」

「ああ、そうだな」


 そんな事を言いながらもドラゴの奴は既に三体目の死者の首を落としてる。早い……武器の差はデカイな。メルルの魔法が自分達の周りに展開される。それは半円状の光が包み込むものだった。その光に包まれると、身体が軽くなった。これで自由に動けるか? 

 

「無茶は……ダメ。完全に防げてる訳じゃ……ない」


 ということらしい。けど……ここは無茶をしないと切り抜けられそうにない。でも問題が一つ……いや、一つじゃないが、大切な事が一つある。

 

「この半円状の結界は一緒に移動してくれるのか?」


 そうでないと、ここを突破したあと瘴気でまた動けなくなるんじゃないだろうか? それは不味い。そこら辺は……一体……

 

「結界が動けると……思う?」

「だよな」


 そりゃそうだ――と思ったけど、メルルの奴はその丸メガネをクイッとやってこういった。

 

「けど……これは特別製。私が作った追従性だからこの範囲も動く。私を中心とした……半径五メートルだけだけど」

「それでも動くならありがたい」


 とりあえずメルルの側を離れないようにしないとだな。てか魔法ってそんな色々と出来るものなのか? 自分自身が使えないからよくわからないな。まあでも今は目の前の事に集中だ。こっちがある程度動けるのなら、動きが遅い死者達なんてそこまで脅威じゃない。数は多いが、路地とかを選んで成るべく囲まれない様にすれば行ける筈だ。

 

 てな訳で、路地から出てきてた奴等を叩き切って、その路地を覗く。大丈夫、ここは二人が並んで通れる位の道だ。大通りよりも数は少ないし、いける!

 

「こっちから進もう」


 そうやって、僕たちはなんとか死者たちを退けながら町の中心部を目指す。少しだけ視界に境界の屋根につけられてる聖女様の像が見える様になってきた。建物隙間からとかそんな感じだが、近づいてるのは間違いない。だってここらへんは瘴気がこすぎて、なんかもう霧のようになってる。そしてそんな中進と、どこからか戦ってる様な音が聞こえきた。

 

「戦ってる?」

「ここらへんの死者がやけに少ないのはそのせいかもな」


 それはあり得るな。今までうようよ居たのに急に居なくなった。これは別の所に行ったと見た方がいい。そして別の所で戦う奴の心当たりが自分達にはある。

 

「ブリン?」


 メルルがそう呟く。僕達は素早く移動しだす。一刻も早く確かめる為に。

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