第55話 フライパン

 その以上に大きな頭を向けて飛びかかってくるうさオーク。その威力は結構えげつなくて、家の壁に一撃で穴が空くほどだった。あの頭……案外詰まってるのか? そんな風に自分は思った。うさオークはぶち破った壁から、その獰猛になった瞳を向ける。グズグズしてる場合ではない。あんまり悠長にしてると、この家が悲惨な事になってしまう。まあ既に結構悲惨だが……これ以上はほんと不味い。

 だから自分とドラゴはうさオークを押さえつける為に飛びかかる。

 

「「どりゃあああ!!」」


 けどそんな自分達をあざ笑うかの様に、うさオークはジャンプして交わす。そして壁を走って更に突進してきた。

 

「うお!?」

「あぶねっ!!」


 今度が床がベコッといった。流石にうさオークの突進をただ受けるなんて出来ない。直線的だから予測はし易いが、これだけの威力を受け止めるとなると、骨の一本二本で済むかどうか……案外やっかい。ウサギの素早さは健在だしな。あんなデカイ頭つけてよく素早く動ける物だ。事実最初は頭を引きずる様にして歩いてた筈だ。

 けどいつの間にか普通に歩ける様になっていた。首が鍛えられたのだろうか? いや、今はそんな事どうでもいいか。とにかくどうにかしてうさオークの動きを止める。そうすればメルルの浄化魔法を掛ける事ができる。

 

「ルドラ! これ使え!」


 そう言ってドラゴの奴が何かを投げてくる。それを咄嗟に受け取ったが、それはなんとフライパンだった。確かにこれなら殺傷力はあんまりないし、思いっきりぶん殴っても平気か……おまけに防御にも使えるという優れもの。一家に一台フライパンは当たり前。まあドラゴも持ってるから、この家には2個あったんだろう。

 

「来るぞ!」


 そんなドラゴの叫びと共に再び真っ直ぐに突進してくるうさオーク。けど今度は避けないぞ。なにせ今はフライパンがあるからな。フライパンの柄を持ち、焼く面を肩の側面につけてその衝撃に備える。うさオークの硬い頭が当たった瞬間、ガゴン! という鈍い音が響いた。と同時に自分の身体が後ろに吹っ飛ぶ。なんという威力。フライパンが一瞬で凹んだ。

 もしもフライパンが無かったら、自分の肩は一体どうなってたのか……恐ろしい。だがフライパンのお陰でうさオークの突進の勢いは無くなった。そこにドラゴが更に思いっきりフライパンを振りかぶる。

 

「うおおらあああああし!!」


 情け容赦ないその一撃がうさオークの顎に直撃して、脳天が跳ね上がる。地面に落ちた後もフラフラとしてるうさオーク。完全に目眩が起こってる。

 

「今だメルル!」

「……わかってる」


 そう呟いてメルルが魔法をうさオークにかける。白い光が紫の正気をかき消した。そしてパタっとうさオークは床に倒れた。

 

「しばらくしたら……目を覚ます筈」

「何とかなったか」


 少しの安堵を自分とドラゴは感じてた。けど、メルルは真剣な表情を崩さない。

 

「ううん……大ピンチかも」

「え? ってうおおわあああああ!?」


 何やら背中にドサッとした重みが加わったと思ったら、横から骸骨が顔を出してた。なんじゃこりゃあああ! だ。

 

「くそっ! この! 離れろ!!」


 振り払おうとするも、めっちゃ必死に掴んでる。ドラゴも参戦して、フライパンで頭とか各部の骨を吹き飛ばすが、直ぐに元に戻りやがる。

 

「あれ……なんか……力が……」


 息も苦しくなって、身体に力が入らなくなる。床に膝を付いて荒い息がでる。

 

「生命力を吸って……る? まって、直ぐに回復させる」


 そう言ってメルルは回復魔法を自分じゃなく骸骨の方へ撃つ。すると苦しみ出した骸骨から離れる事が出来た。だけどそれも直ぐに回復したのか、再び立ち上がってくる。そしてカタカタカタと大きく口を開いて音を出し始めた。

 

「なんか……ヤバイ感じがしないか?」

「奇遇だな……僕もだよ」


 そう思ってるとバリーンと窓が割られる。外には同じような骸骨や、腐りかけの遺体が集まってた。不味い不味い不味い……これは非常に不味い事態だ。

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