勝てない勇者の英雄譚

uenouta

第1話 旅立ち

 勇者とは何か? その問いにきっと人々はこう答えるだろう。


「人類の希望」「最強の存在」「神の代行者」「平和の象徴」


 それは間違ってはない。これまでの歴代勇者は紛れもなくそうだった。人類の希望として人々を救ってきた。だからこそ今ここに人々はいれるんだ。けど、その常識は今代で変わるかもしれない。


 人々は絶望にくれるしかない。何せ今代の勇者は何の力もないという。あるのはただの勇者の称号だけ。神の天啓を受けただけの存在なのだと伝え聞いてた。けどそれでも……と人々は思った。

 まだ天啓を受けた勇者は小さい。成長すればもしかしたら……そんな思いが人々にはあった。だってそだけが希望なんだ。勇者ならばきっと素晴らしい成長をしてくれる。

 そして魔王を駆逐し、世界を救ってくれると……そうきっと。



 青い空が突き抜けるように広がって、靡く風が優しく肌を撫でる。大きな門の下で三人はこの都市での最後を感じてた。勇者の旅立ちだというのに人っ子一人見送りなんてなく、そして入ってく物も出てくるものも彼等に気付くものはいない。


「こんなものなのかよ、勇者の旅立ちってのは? もっとこう派手に送り出してくれるものじゃないのかよ?」


 そういうのは仲間の一人『ドラゴ・メルド』は不機嫌そうだ。まあこいつが眉間にしわを寄せてるのはいつものことである。気にする必要はない。そういう人相と思ってもらっていい。


「しょうがない……よ、ドラゴ君。だって私達が従者な時点でそういうこと……だよ」


 おどおどとした声でドラゴに声をかけるのは『メルルーサ・シルバト』いつも自信なさ気で他人の目を気にする彼女には返ってまあ好都合だろう。そして二人は同時に自身の前方で仁王立ちしてるこちらを見る。

 それこそが自分、今代の勇者『ルドラ・アーカイム』である。これからの旅の道程に思いを馳せてたんだが、何か視線を感じるから振り向く。そして言ってやるよ。


「まあ、何とかなるさ」


 そう気楽にいう。そして三人で最初の目的地である中間都市『サングリア』を目指して歩き出した。

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