とても短いお話
みとゆひや
正義
木の下には何も埋まっていない。
僕は自宅にある梅の木の根元に見つめる。腐っているわけでもなく、生気に溢れているわけでもない。なんの変哲もない根元。
くだらない、と僕は呟く。
僕には母親がいるが父親がいない。僕が小学校に入学する頃に別の女を作って出て行ったそうだ。
女手一つで僕を育ててくれた母には感謝しているが、それでも、あまりにも彼女は弱すぎた。
二年前。父親と名乗る男がやってきた。
母は何も言わずにその男を住まわせた。
その二日後。警察がうちに訪ねてきた。
聞いたこともない女の名前と父の名。そして、女が行方不明であること。
馬鹿でもわかることだ。殺人犯は父以外に有り得ない。
しかし、母はあろうことか父をかくまった。まだ、自分が愛されているのだと勘違いしているのだろうか。哀れだった。
これを機に、家族内の力関係が明確になった。父は一歩も家から出ようとせず、母に命令し続けた。
この状況が一週間続いた頃、僕は密かに練っていた計画を実行した。
警察の来訪から自室に人を入れることを嫌うようになった父の部屋に侵入し、ベルトで首を絞めた。予め母が持って行くモノに睡眠薬を仕込んでいたためすんなりと事を終えた。
困ったのは死体の処理。二度同じ事をするのは芸がなかったが仕方がなかった。
死体を押し入れに入れた。
そこには先客がいたが気にせずに、投げ入れた。
母親には父がまた、女を作って出て行ったと説明した。
この二年間は腐っていく死体への処置に苦戦したが、白骨にまで作り上げた。
骨を砕き、砂のように細かくした。
手元にはそれがある。
また、くだらないと呟いて木の根元にかける。
養分くらいにはなるだろう。
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