第13話 厩火事
美容室を開いている1組の夫婦がいた。
「あなた! ちょっとは店を手伝ってよ!」
「あーー……ちょっと今日はなぁ。
悪ぃ、パチンコの新台入荷なんだ」
「あなたね! いつも遊んでばかりじゃない!
昼間からお酒を飲んで、どうも思わないの!?」
「何言ってんだ! そもそもこの店は俺の店だ!
それをどうしようが俺の勝手だろうがぁ!」
夫はばしんとたたきつけるように戸を閉めて家を出た。
最近になってますます豪遊に歯止めがきかない。
夜遅くまで飲み明かしてはふらふらになって帰る。
妻は夫のことは嫌いじゃないが、
この悪癖ばかりはどうにも鼻についてしょうがなかった。
「……というわけなのよ。
いっそ離婚しようかどうかも考えているの。
きっと夫は私のことなんて……うぅ」
妻はその話を友達に話した。
「それで、あなたは旦那が嫌いなの?」
「……ううん。
ただ、私に愛想をつかしたのかが心配なの。
家に帰ってこないのも、私を好きじゃなくなったのかって」
「それなら、いい話があるわ」
友達は2つの話をした。
1つは、高級なお皿を大事にするあまり
家庭が壊れてしまったある一家の話。
2つ目は、孔子の大事な馬小屋を焼いてしまった弟子の話。
「でね、弟子は孔子に謝ったのよ。
馬小屋を燃やしてごめんなさい、って。
でも、孔子は答えたの。
『お前たち、火事ででけがをしなかったか?』って」
「……いい話ね。
でも、それが私となんの関係があるの?」
「あなたの旦那が、愛想を尽かしてないなら
きっとあなたの体のこと心配してくれるよ。
旦那の身の振り方で愛があるか確かめられるんじゃない?」
「そうね、試してみるわ」
そこで妻は夫が帰ってくる前に店を燃やすことに。
間違っても巻き込まれないよう店の外から。
もし、夫が自分よりも店の心配をしたら愛がない。
私の方を心配したらまだ愛が残ってる。
「よし、行くわよ」
夫が戻る時間に合わせて火を放つ。
夫は戻ってくると、
店なんかよりまっすぐ妻のもとに駆け寄った。
「おい! 大丈夫か! ケガはないか!?」
妻はその言葉がなによりも嬉しかった。
「ああ……あなた。
まだ私のこと、大事に思ってくれてるのね」
「当たり前だ。
お前がケガでもしたら、
明日から遊んで酒が飲めなくなるだろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます