第11話 開帳の雪隠
サービスエリアに二人の男がやってきた。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
「ああ、それなら僕も」
二人は男子トイレに向かうと、
女子トイレから蛇のような行列がはみ出ていた。
「すっごい行列だなぁ。
見てみろ、おばさんは男子トイレにまで入ってきてるぞ」
「……待てよ? これはいいこと思いついた!!」
数日後、大人気のサービスエリアには
新しいトイレができていた。
「さあ、いらっしゃい! こっちにもトイレがあるよ!
普通席は100円! 特等席は200円!
急いでいる人はこっちへどうぞ!」
男の目論見は大成功。
女子トイレの行列にしびれをきらした人が
小銭を握りしめてダッシュしてくる。
二人はあまりのとんとん拍子にハイタッチ。
突貫工事だったので設備もたいしたものじゃないが、
背に腹は代えられない。
「やったな! これでずっと稼げるぞ!」
「ああ、僕らはこれで大金持ちだ!」
翌日も、その翌日も二人は稼ぎまくっていた。
けれど、ある日を境にぴたりと人が来なくなった。
「おい、どういうことだ!?
なんでトイレが使われない!?
みんなトイレ行きたくならないのか!?」
「いや、違う……見てみろ!」
こっちのトイレの反対側、きらびやかなトイレができていた。
ひとりが偵察に行ってみると、
客は全部新しい方のトイレに流れていた。
「あの、すみません。
どうしてこっちのトイレ使うんですか?」
「それはあなた、こっちの方が良いからよ。
ウォシュレットもあるし、便座も暖かいし
なにより清潔で値段も同じなら迷うことなんてないでしょう?」
「え゛……」
男はすぐに報告に戻った。
「どうだった? 客が盗られた原因わかったか?」
「ああ、あっちのトイレの方が高品質で同じ値段なんだ。
そりゃ客もそっち使うって」
「うぐっ……だったらどうすりゃいいんだ!」
とはいえ、二人では高品質な物に取り換えることもできない。
苦し紛れに『元祖・臨時トイレ』と看板を出したり
空いてますよーと声をかけてみても効果がなかった。
「ダメだ! もう客が戻ってこない!」
「人がいないことで来ずらいんだろう。
よし、ちょっと行ってくる」
「行ってくるって……どこにだよ! おい!」
男は向こうの共有トイレへと向かった。
「あいつ……何する気だ。
ケンカでもしなければいいけど……」
しばらくすると、行列が一気に流れ込んできた。
「まいど! まいど! まいど!
まいどありがとうございます!!」
その日の商売が終わると、男が戻って来た。
「客が全部こっちへ戻って来たぞ!
お前すごいな! いったいなにしたんだ!?」
「簡単さ」
男はにこりと笑った。
「あっちのトイレでずっとこもってた」
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