第2話 文七元結(ぶんしちもっとい)
「あああああ! また負けたぁ!」
パチンコで負けがこんだ男は思い切り台を叩いた。
「お客様、そろそろ50万円のお支払いを……」
「支払い? そんなものあるわけないだろ!」
なかば開き直るようにキレたものの、
男が支払い能力なんてないことをごまかせるわけがなかった。
あっという間に身ぐるみはがされて、
裸で寒空の下に放り出された。
「ううっ……さささ、寒い……。
これじゃもうキャバクラも行けないなぁ……」
男は賭け事大好き、女遊び大好きの無職。
もう絵にかいたようなクズ男。
そこに妻が迎えに来た。
「あなた! こんな時に何をしてるのよ!」
「あ、ああ……いいじゃないか、別に。
俺が稼いだ金をどうしようと勝手だろ!」
「娘がいなくなったのよ!
それなのにパチンコなんて……最低よ!!」
裸の男と、顔を真っ赤にした妻の夫婦喧嘩。
なんだなんだと人が集まって来た。
その中に、男が通っていたキャバクラの女がやって来た。
「娘さんなら、私の家に来てましたよ。
こんな夜に女の子1人で放るのも危ないので、
こちらで預かっています」
「おお、そうか。早く迎えに行こう」
男はキャバ嬢から服を借りて、店に向かった。
「イヤ! お父さんが改心しない限り、私は戻らない!
ここでキャバ嬢として生きていくんだもん!」
「お前のためにいい高校にも入れてやったのに……」
「知らないよ! とにかく私は帰らないから!」
困った男は、キャバ嬢に相談した。
「……というわけで、娘が帰らないんだよ」
「無理に連れ出しても、別の場所に家出しちゃうだろうね。
私もいつまで非従業員を置いとくわけにもいかない。
50万貸してあげるからそれで借金返してきなさい」
「……わかったよ。
これで借金を全部返して改心するよ」
男はお金を持って、パチンコ店へと戻る。
その途中の橋に差し掛かったところだった。
「……あれ?」
橋の手すりにはだしの若い男が立っていた。
靴には遺書まで置かれている。
「お、おいあんた! 何する気だ!」
「何って自殺するんですよ!
嫁にも汚名を背負わせることになる!
もう死ぬしかないんです!」
「そんなわけないだろ!
生きてりゃどうとでもなる!」
男は彼を引きずりおろした。
事情を聴いてみると、社員の給料を落としてしまったらしい。
「私の会社は小さな会社なんです……。
50万円とはいえ、私が給料が払えなくなれば
もう私のせいで会社は立ち行かなくなります……」
「50万……。
だったら、これで給料を払ってこい」
男はキャバ嬢から受け取った50万を渡した。
借金を返せず娘がキャバ嬢になっても死ぬわけじゃない。
けれど、男は50万無いと死んでしまう。
迷う理由はなにもなかった。
「ありがとうございます!
あなたには会社でお礼を贈らせてください!」
2人は会社へと向かい、社長に50万を渡した。
「……この50万は?」
「なにって社員の給料ですよ」
「給料だったらお前会社出る前に置いていっただろ」
「あ……」
机には置きっぱなしの給料があった。
社員は白状してこれまでの顛末を社長に話した。
「なるほどね。あんたみたいないい人がいるなんて。
これはぜひうちの社員を助けたお礼をさせてください。
お礼の宴を開かなくちゃおさまりが付きません」
「あー……でも、俺はこれから借金を……」
「人の厚意を断る気かい?」
「よっ、喜んでお供させてください!」
男は社長に気おされるようについていった。
「こんな良い人をもてなすには安い居酒屋じゃだめだ。
やっぱり華がないとね」
「ここって……」
やってきたのは、娘が匿われているキャバクラ。
なんと、そこのキャバ嬢と自殺した男は夫婦だった。
「聞いてくれ、実はこの人が僕を助けてくれたんだ」
「ふふっ、なんてご縁かしらね。
見なさい、あなたのお父さんは改心できたみたいね」
キャバ嬢の奥から娘が出てきた。
「お父さん……」
「今まで悪かった……。
これからは改心して、職も探してみるよ」
「だったら、もう職は決まっておる」
社長はにこりと笑った。
それから、社長のもとで必死に働いた男のおかげで
会社は大きく発展し、夫婦もすっかり仲を取り戻した。
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