第43話 若き騎士たち
翌日、シムは東地区の演習場にいた。
予定時間びったりだったが、バトは既に来ていたようだ、それと、もう一人、女性??
「初めまして♪あなたがシム君ね、ユカ姉から聞いてるよ、アキムギルドマスターのリコです」
昨日会えなかったからなのか、わざわざ来てくれたようだ。
「あ、はぁい、よろしくお願ぃしまぁす」
「時間が惜しい、鉄剣でスキル有り、実戦形式でやるぞ」
相変わらず無愛想な顔でバトが急かしてくる。
「午前は空いてるから、ちょっと見学していくわね♪」
なんだか楽しそうなリコ、
二人は間合いを取り、剣を構える…
穏やかな風が吹いているが、シムには嵐の中に居るような気分だった。
練習なのに、バトの放つ気迫だけで圧倒される。
(昨日も見ただけで凄いと感じたけどぉ…、この人、構えるとますますスゴォ~!)
シムは威圧だけで押し潰されそうになる自分に耐えるのがやっとだった。
そのとき!
閃光のように大剣が空から振り落とされる!
「なっ?!」
間一髪!回避したが、おおよそ大剣とは思えないスピードで迫るバト!
「どうした!超優秀!!」
大剣を再び構えながら、挑発とも取れる言葉を放つバト。
「こぉれから、ですよぉ!」
一気に間合いを詰めて大剣の振るえない近距離から攻めるシム!
だが!
体を素早く回転させ大剣を振るう距離を稼ぎ、あっさりとシムの強襲を受け止めるバト!
自分の扱う武器のデメリットもよくわかっている。そこをすぐに狙われることも…。
「ふふ、最初はバトの大剣の扱い方だけで翻弄されちゃうのよねぇ…」
二人には聞こえないほどの音量だが、リコは楽しそうに呟きながら見物している。
(大剣でこんなに速かったら反則だろぉ~)
とはいえ、片手剣で劣るわけにはいかない!
『ソニックスラスト!』
真空波!遠くから剣士が威嚇として使う定番スキル。
なまくらの鉄剣だが、スキルにはスキルで対応しなければ大ケガをしてしまう!
『パリィ』
凪ぎ払い!
いとも簡単に波を打ち消すバト、
しかし、これは威嚇、相手がスキルで対応している隙を突くのが目的!
シムは再度突進して今度は反応しにくい下段から斬りに行く!
『サークル!』
隙だらけの足を狙ったはずが、在るはずのない大剣によってこれも防がれてしまった!
(なんで間に合ったんだぁ?!)
"サークル"
これは槍などの長い武器を扱う時、回転を利用するために武器を素早く手元で回すスキル。
一般的には大技の溜めに使うスキルをバトは手元でより大剣を操るためだけに習得し、使いこなしている!
「確かに速いな、だがそれだけだ」
超優秀という肩書きを一刀両断する言葉。
シムの額にはすでに大量の汗が流れ落ちている…。
たった2回打ち合っただけでも解る。
バトは大剣を使いこなすために努力と研究を重ねてきた人だ。
攻めるだけじゃない、
防御への転換の速さ、
臨機応変なスキルの習得。
一昼夜で出来たものじゃない…。
中等で1度は剣を投げ出し、練習から遠ざかっていた日々、
シムはバトの大きさを知り、この時やっと無駄に過ごした時間を悔やむ事ができた。
「さぁ、どうするかなぁシム君、相手は努力の天才よ…」
本当に楽しそうに終始笑顔で二人の練習を見守るリコ。
「だったらぁ、これしかなぁい!」
シムには固有のスキルがあった。
このスキルを持つがゆえに"超優秀"という判定を受けたと言っても過言ではない。
『マキシマ!』
忽然とシムの体から光る湯気のようなものが立ち込める!
シムの視線がバトに向けられたその瞬間!
多少の距離があったはず?!
バトは有利だったとはいえ、油断していたわけではない、
左袈裟ギリギリを剣で防ぐことが出来たが、一瞬にしてシムが現れ、攻撃されていた!
「防がれたぁー?!」
悔しそうに後退しながら嘆くシム。
それもそのはず、この技は瞬時に移動し、剣撃を浴びせるというシンプルな技のようだが、個人が命のオーラを燃やす以外で自分の能力を高める技を使えるのは稀なのだ。
発動さえすれば、溜めも必要としない。反則級を使えるのはお互い様だったのだ。
(単発だから防ぐことが出来た…、コンビネーションで使われたら避けられん…)
バトの額からも一筋の汗が垂れていた…。
「お互い探り合いは終わりだ!行くぞ"シム"!!」
「のぞむところぉです!」
ここから二人は余計なことなど考えず、打ち合い、互いを高め合うように本気になった。
バトも彼が単なる称号だけの天才ではないことを悟った。
"シム"
相手をちゃんと名前で呼ぶことで相手を認め、対等に扱うという証。
(凄い!この二人…、いいライバル同士になる…)
リコはいつの間にか真顔で二人の練習に見入っていた。
リコは用事があるため午後の練習までは見てられなかったが、どうやら二人は暗くなるまで稽古を続け、力尽きるまで汗を流したらしい…。
今夜は晴れて夜空の星がとても綺麗に見えていた。
二人は汗だくで、大の字になって倒れこみ星空を眺めていた…。
「ハァハァ…、シム、お前の夢はなんだ?」
剣を交わすことですっかり打ち解けたバト。
「フゥ~うぅ~夢ぇですかぁ…」
息づかいさえも癖のあるシム。
「"これだけは"ってぇ物を手に入れたいですねぇ~」
肩書きでチヤホヤされるのではなく、本物になりたい。それがシムの望みだった。
「そうか、お前なら出来そうだな。」
シムが出会って初めてバトが笑っていた(軽く口元が緩んだ程度だが…)
「まだまだぁですよぉ、バトさんの夢ぇはなぁんですかぁ?」
今なら質問返しをしても応えてくれそうだと感じたシム。
「俺は…、"護るべきもの"を見つけることだな」
この時の二人の夢は数年後、実現されることになる…。
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