ペパーミント、ドレミ、ボーリング

 ペパーミントキャンディを見かけるたびに買ってしまう。けれど小さい頃に伯父からもらったものにはかなわなくて、いつも少しだけ落胆する。


 独身の伯父は私を子供扱いしなかった。それが無性に嬉しくて、書斎に一日中入り浸ることもあった。埃っぽい匂いと、小難しげな本の詰まった棚と、窓の外の楓の木。私にはすべてが特別に感じられた。


 地質学者だった伯父からは、仕事の話も聞いたことがある。ボーリングという言葉にまず掘削調査を思い浮かべてしまうのはこれが原因かもしれない。


 ドレミの歌を英語で覚えたのもあの部屋だった。伯父の低い声と私の高い声が重なって、本当にミュージカルの中みたいだった。


 ペパーミントキャンディを舐めながら帰る夜は、今でもドレミの歌が口をつく。二度と戻らない日々だからこそ、恋しさは嫌でも増していく。

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