放課後のメイザード

月天下の旅人

第一部

ネオナチ襲来編

第1話「声明」

 西暦2025年。

 2022年におけるクローン大戦とその余波で人口の半数が死滅した世界。

 クローン大戦においては2018年にその存在が確認された『魔法』が、

戦闘の肝として使われた。

 魔法が使えるのは基本的に女性かクローンのいずれかに限られていた。

 狭義のクローンである一卵性双生児にも使えるのだが、

それは成長因子の一つが関与しているようだ。

 ともかくクローン大戦において現人類最後の砦となった日本は、

他国の復興の中心となることで食料を確保していた。

 だが未だ世界はクローン大戦の傷跡から癒えきれておらず、

それはネオナチスの台頭を許すことになっていた。

 中保台学園の生徒はそうとは知らずに今日も魔法の演習をしていた。

 中保台学園は有事に備え魔法少女を養成するための学園なのだが、

そこに通う生徒はあまりその実感を持っては居なかったのだ。

 だがそこに一人の生徒が現れることで、物語は大きく動き出すのだった。

「転入生を紹介します」

 先生にそういわれ促されるまま出て来たのは、清宮忍きよみやしのぶ。

「清宮忍です。よろしくお願いします」

 もちろんただの転校生ではない。

 何しろ忍は男の娘だからだ。

「4月の最初に『転入生』?怪しいわね……」

「そうでもないんじゃないかな。ここは魔法少女の養成校だし」

「元がきな臭いだけに、何か起こりそうな予感がむんむんなのよ」

「少なくとも素性ははっきりしてるわ。政府のお墨付きだし」

「結局それって『何か起こる』フラグじゃない」

「何かがあったらまずいのかな?」

「復興の最中は不穏分子が生まれやすい時世だから巻き込まれるよね?」

 そんな忍に女子生徒はいう。

「またクローン大戦のようなことが起こるっていうの?」

「ここはそれに対処するための学校だよ」

「だからといって戦いに巻き込まれるなんて、やっぱり怖いよ」

「それは分かるよ。けど、何か起こる時は僕達で何とかしないといけない」

 すると、先生がいう。

「緊急事態です。テレビを付けますよ」

「中保台学園の魔法少女に告ぐ!」

「我々は腐りきった民主主義を終わらせ、ナチスの再興を行う者だ!」

「ありきたりな声明だな」

 忍の感想など当然向こうには聞こえないので、声明はつつがなく続く。

「我らはネオナチスとでも呼べばいい。ナチス残党だと響きが悪いからな!」

「同志たちよ立ち上がれ!ユダヤ人の弱っている今こそ世界を手にする好機!」

「ハイルナチス!」

 声明を行った少女に続き、他の少女達も一斉に叫ぶ。

 テレビに映る旗には黒十字がしっかりと刻まれていた。

「ベタなプロパガンダだね。ここの生徒の殆どがそう感じるだろうくらいには」

「ネオナチスだし、そういう物なんじゃないの?」

「規模は大体某仮面のバイク乗りに出てくる組織くらいかな」

「それって凄いんだかショボいんだか」

「そいつらもナチス残党だって話を聞いたことがあるわね」

「まあ、あまり語られないがどうもそうらしい」

 何となく執筆時点で45周年のあれを彷彿させる会話だが、

気にしてはいけない。

 このくらいの会話なら学校ではありえるからだ。

「声明はこれで終わりなんだね」

「別にいうことが無かったからじゃないかな。良く分からないけど」

「それならいいんだけどね……」

「とはいえ、今彼女たちがこの国に居るのかな?」

 すると先生はいう。

「声明の発信場所はパレスチナ自治区よ」

「パレスチナ自治区、ということは『イスラム国』が昔暴れていた?」

「クローン大戦の混乱でイスラム教徒自体が散り散りになっているからね」

「昔のユダヤ人みたいな状態ってことだね。何か可哀想」

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