青年と神社

いざよい ふたばりー

青年と神社

今日は朝から晴れていた。

アパートに住むその青年は、天気もいいし、たまにはとスーパーで惣菜を買い景色のいい所で昼食を取ることにした。

「たまには知らない道でも歩くかな…。」

そんな事を言いながら、小道をのんびり歩いていると、小さな神社を見つけた。

その神社はあまり人が立ち入らないのだろう。少しばかりゴミが散らかっている。

「素行の悪い者がいるものだ。すぐそこにゴミ箱があるのに何故その辺にすてるかなぁ…。」

ぶつぶつと文句を言いながら、散らかっていたゴミをゴミ箱へすてる。ひとしきりかたづけをし、ついでとばかりにそこにあったほうきを使い、掃除をはじめた。

「やれやれ。これで少しばかりきれいになったかな。いい事をした後は気分がいいな。お腹もすいてきたし、ここでお昼を食べてもバチは当たらないだろう。」

景色を眺めながら昼食を取っていると、祠のような物を見つけた。

青年はなんとなく、まだ手をつけていなかった惣菜をお供えし、なんとなく手を合わせる。

彼は特に信仰心はないが、神社という場所がそうさせるのだろう。

「ここに置いておいたら野犬や野良猫なんかに食い荒らされるだろうな。帰る時に持って帰ろう。」

昼食が終わり腹もみたされ、天気が良いのも手伝い、ついうとうとと居眠りをしてしまった。

そこで、彼は夢をみた。

夢の中に老人が現れこう告げる。

「ここはあまり人から関心をもたれず、たまに性根の悪い奴がゴミを散らかしていく。そこへお前が現れ、境内を掃除し、お供物までくれた。礼をしよう。ひとつ、望みを叶えてやる…。」

そこで目を覚ました。

「いかん。つい居眠りをしてしまった。しかし妙な夢をみたな。こんなところで居眠りをしたからだろうか。」

そろそろ帰るかと、お堂にむかうと、

「やや、さっきお供えした餃子がなくなっているぞ。寝ている間にやられたのかな。」

なくなったものはしかたがない。青年はゴミを片づけ家に帰る。

その後夢のこともすっかり忘れ、いつもと変わらぬ日々を送っていると、青年はまた夢をみた。

「おい、お前さん。一体いつになったら願い事するんだ。いささか待ちくたびれたぞ。」

「誰ですか、あなたは。いや、どこかで一度お会いした様な…。」

「わしはあの神社の…。」

「あ、思い出した。いつか神社で居眠りをした時に夢に出てきた。」

「左様。あの時の礼をすると言ったのに、お前は中々願いを口にせん。欲がないのか。」

「いえ、ない事はないですよ。私も人並みな欲はあります。」

「そうかそうか。しかし、そろそろ夢も覚める頃。使いをおくる。そいつに願い事を言えばなんでもひとつだけ叶えてやろう。それまでわしはまた眠りにつくことにする。」

青年が目を覚ますと、そこには1匹のネズミがいた。

「ははあ。こいつが使いと言うやつか。しかし、なんでもひとつとなると難しいな。」

願い事、願い事……。青年は何かないかと考えながら日々を送る。

仕事中もその事を考え続けていると、同僚から声をかけられた。

「おい、お前最近なにか考え込んでいるが何かあったのか。相談くらい乗ってやるぞ。」

「いや、大した事はないんだ。気にしないでくれ。」

言ったところで信じてはくれないだろう。仮に信じてくれたとしても、なんでも願い事が叶うと言えばあれやこれや言ってくるに違いない。ここはごまかす方が無難であろう。

「そうか。それならいいが。」

「ああ、それよりどうした。最近いやに機嫌が良いな。何かいいことでもあったのか。」

「わかるか。そうなんだ。最近猫を飼い始めたんだ。これがまた可愛いくてな。」

「へえ、そいつはいいな。今度俺にもみせてくれよ。」

なんとかごまかし、話をそらし、仕事を終えて家にかえり、再び願い事を考える。

あれもいいし、これもいい。しかしひとつとなるとどうも難しいな。例えば一度に大金を手にすると、色々価値観が狂うと聞くし、仕事に熱が入らなくなるだろう。しかも今の仕事も楽しく給料も申し分ない。一瞬彼女を、とも考えたがそんな事に使うのはもったいない気もする。

何かないかと考えていると、玄関のチャイムが鳴った。

「はい、どなた…。なんだお前か。」

ドアを開けると同僚がいた。

「そんな言い草はないだろう。それよりほら、みてみろよ。」

「さっき言ってた猫か。別に今日でなくても良かったのに。」

「まあまあ。こいつの餌を買いに出かけたら、そういえばこの辺にお前が住んでる事を思いだしてな。そのついでによったんだ。」

同僚を迎え入れた青年はドアを閉め、

「コーヒーくらい入れてやろう。ちょっと待っててくれ。」

「そんな気を使わなくても。」

同僚は猫を遊ばせていると、猫は何やら勢いよく走って行き、ドタバタと物音を立てている。

「あ、こら。人の家で暴れるんじゃない。すまん、いつもはおとなしい子なんだが。」

「いいよ。別に高価な物があるわけでもないし、猫が暴れたくらいで壊れる様なものはないよ。」

物音がおさまり、猫を追いかけた同僚の声がする。「おおい、どうやらネズミを食べたようだ。片づけるから掃除用具を借りるぞ。」

青年ははハッとし、同僚の元へ駆け寄る。

「まさか、いや、しかし…。」


そこには、無残に食い荒らされた神の使いであるネズミの残骸が残っていた。

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青年と神社 いざよい ふたばりー @izayoi_futabariy

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