どうしてパンケーキ???
夏をあきらめた高気圧は秋雨前線に押しやられ、今週はにぎやかな傘の花が咲くでしょうって天気予報のお姉さんが、自分の台詞に酔いながら伝えてる。
愛犬たちは最高気温が25度でおさまり始めて、朝晩の散歩への意欲を増している。
読書の秋 芸術の秋 食欲の秋
それはわかる。
わかるけどさ、
今、金曜日の19時15分。
やってきた隣のテーブルの男の注文はパンケーキ。
すぐにiPadで読書開始。
どうして、パンケーキなのよ???
この時間に、男一人で、パンケーキ?
パンケーキ??
パンケーキなの???
しかも、ドリンクは注文なしで、水を催促。
年のころは50歳。
身長175㎝、そのお腹なら体重80㎏超えてるな。
黒ぶちの眼鏡に、刈り上げたざんばら髪。
淡い紺色の長袖のカッターシャツに黒いネクタイ、黒いズボン、茶色のベルト、黒い靴下、黒の革靴。
僕は彼女とビールにチーズとフィッシュアンドチップス。
確かにね、パンケーキもメニューに載ってるよ。食べるなと言えないさ。
でもさ、変じゃないか???
僕が変なのか???
周りを見てご覧よ。どんな感じ?
いい歳こいた小太りの男一人でパンケーキが食べられる雰囲気か???
ここは、ビールが飲みたくて集まるお店だよ。
店員さんはいたって普通、忙しいからそんなに気にはならないんだろうけれど、
隣の僕は、何故か、腹が立って仕方ない。
個人の自由?
そうだよ、その通りだよ。別に法には触れていないから自由だよ。
だったらさ、この店に来たんだったらビールくらい注文したらどうなのよ?
僕が変なのか???
気にするな、放っておけばいいじゃないか?彼女も気にしてない。
でも、駄目だ。気持ち悪い。気味が悪い。
一度気にしたら、もう駄目、止まらない。
ほら、お待ちかねのパンケーキがやってきたよ。
お待たせしましたって可愛らしい女子が運んできたよ。
ほら、商品説明してるじゃない。
iPadから目は離さず、顔もあげず。
まだ手も付けない。もう5分も経ってんだけど。
どうして食べないの?冷めてしまうよ?冷めたらおいしくないよ?いいの?
さらに5分。
お水を催促かい?もうピッチャーで持ってきてやって!
やっとかい。やっと食べるのかい。
「ごめん、気になって仕方ないんだ」
「あなたの悪い癖よね。仕方ないじゃない、パンケーキが食べたいんだから。ここのパンケーキ、わりとおいしいのよ」
「そんな問題じゃない。男一人でこんな時間にパンケーキを食ってるってことが、どうなのよ?って聞いてる。せめてビールでも頼めばまだ許せる」
「なによ、その許せる許せないって。見なければいいじゃない」
「わかったよ、席替わってくれるかな」
「もう22時だ。次行こうか」
「ねえ、あの人、まだ食べてるのよ」
「え、あ、ホントだ」
「ねえ、おかしくない?」
「え?なにが?」
「まだパンケーキ、食べてるのよ。あのさ、19時30分ごろだよね?食べ始めたの」
「そうだね、それくらいだよ」
「どうしてまだパンケーキが残ってるの?おかしくない???」
「お腹がいっぱいってわけではないと思うよ」
「じゃあ、なんでよ?」
「食べ終わったら、独りになっちゃうじゃん」
「どういうこと?」
「パンケーキはあいつをここに引き止めておくための理由なんだよ、きっと」
「どういう意味?」
「家で待ってる人もいないし、見たいテレビがあるわけじゃない。静まり返った家にいても面白くないから帰りたくないんだよ。ま、このタイプは会社でも存在意味は少ないとは思うけど」
「なによ、わかったこと言って。味方してんの?」
「んなわけないでしょ。大嫌いなタイプだよ」
「行きましょうか?」
「そうしよう」
そろそろ従業員たちも気がついているはず。
こいつは閉店までいるぞって。
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