深夜の動物病院
23時を過ぎた。
ゲージの中にいるワンコが力なく声を出し続けている。ゲージを抱える女性はどうしようもない自分を、もうすでに諦めている。早く、早く診察の順番がまわってくることだけを願う。その横でご主人がそんな奥様を感じているから、ずっと前を向いている。たまに大きくため息をつく。
ご主人の膝の上で毛布に包まれ、まばたきだけが繰り返されているワンコ。首を動かすけれど力がない。命には別状はないのか、ご主人の表情は穏やか。ずいぶん待たされているのか、奥様が外へ出て行くが、直ぐに戻ってくる。
不器用に停まったベンツのCクラスのワゴン。落ち着かなく降りてきた女性。薄い山吹色の流行りの軽いダウン。その下からはみ出ている白いセーター。細い脚に何故かサイズが大きいジーンズ。かかとが踏まれた紐のないスニーカー。煙草の箱が顔を出している、開けっ放しのヴィトンの鞄。まとまりのない髪、色のない顔。
そうなんだ、
みんな、自分の格好なんてどうでもいいんだ。
大事なものはわかってる。
また車が入ってくる。
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